「君の名は。」は、観光産業も盛り上げている 日本人観光客誘致へ、バス会社が練る戦略

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この対応策として、濃飛バスは日本人観光客の誘客を目指すとともに、広域で他社と連携した輸送改善を目指している。

日本人観光客の誘客に向けては、2016年3月に就任した飛騨市の都竹(つづく)淳也市長が観光政策に力点を置いていることから、同市との協力を念頭に検討を進めた。その過程で、高速バスを共同運行する京王電鉄の永田正会長が新宿―高山線創設時の担当者だったことから、飛騨地域への思い入れが深いことが判明。これが古川直行便の実現につながった。その実施を10月1日と決めたところ「君の名は。」が大ヒットしたことから、関連商品も開発することになったという。

一方、広域連携では、ミシュランに三つ星選定された兼六園、白川郷・五箇山、高山をめぐる「三つ星ルートきっぷ」に新宿アクセスを追加した「三つ星ルート新宿きっぷ」を、京王電鉄の旗振りで2016年7月から発売しはじめた。関係するバス会社は、北陸鉄道・濃飛バス・アルピコ交通・京王電鉄バスの4社で、全社とつながりをもっている濃飛バスが一定のまとめ役となった。

現在では、これをさらに発展させ、金沢―白川郷間の混雑対策として富山経由で金沢へ至るルートや、名古屋・京都・大阪などに抜けるコースも追加できないか検討しているほか、富士山と奥飛騨・高山を結ぶルートについても模索しているという。

飛騨を核に広域周遊観光の充実を

このように見てくると、飛騨地区を中心として高速バスと路線バスを組み合わせた周遊観光が充実しつつあることが実感できる。

これまで、バス会社は各社の営業エリアを基本に経営戦略を立てていたが、高速道路の発展によって高速バスが他事業者の営業エリアに入り込むこととなった。共同運行によって各社がお互いを知ったことが、広域連携による周遊観光へと発展しているようだ。

かつては鉄道がローカル線も含めた周遊券で観光客を誘致していたが、いまや鉄道は新幹線と一部の幹線、それに都市圏内程度しか観光に利用できなくなっている。そのうえ、ローカル線は列車本数が少なく、今後は廃止も進みそうだ。この点、道路を走るバスは自由度が高く、複数事業者が協力することで広域の周遊観光も可能になる。地域が離れている場合は、帰路に飛行機を組み合わせることで復路の旅程短縮も可能だ。

濃飛バスが高山・古川・奥飛騨を核として、関東から中部・北陸・関西までの広域連携にその地の利を活かしている様子には、これからの国内旅行の可能性を感じた。今後の連携強化に注目していきたい。

伊藤 博康 鉄道フォーラム代表

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いとう ひろやす / Hiroyasu Ito

1958年愛知県生まれ。大学卒業後に10年間のサラリーマン生活を経て、パソコン通信NIFTY-Serveで鉄道フォーラムの運営をするために脱サラ。1998年に(有)鉄道フォーラムを立ち上げて代表取締役に就任。2007年にニフティ(株)がフォーラムサービスから撤退したため、独自サーバを立ち上げて鉄道フォーラムのサービスを継続中。鉄道写真の撮影や執筆なども行う。

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