「君の名は。」は、観光産業も盛り上げている 日本人観光客誘致へ、バス会社が練る戦略

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濃飛バスは、そんな「聖地巡礼者」に対するサービスを立ち上げて、訪日外国人観光客のみならず、減少傾向にある国内旅行者需要を掘り起こそうとしている。

「君の名は。」のヒットを受け、昨年12月1日からはバスタ新宿8時15分発の便も飛騨古川駅前まで延長された。この便は飛騨古川駅前に14時15分に到着する。東京から飛騨古川まで鉄道を利用する場合は、東京駅9時00分発の東海道新幹線「のぞみ」と特急「ひだ」を乗り継ぐと飛騨古川に13時28分着、東京10時24分発の北陸新幹線「かがやき」と「ひだ」を乗り継いだ場合は飛騨古川14時17分着だ。

時間は鉄道もバスも似たようなものだが、運賃・料金は通常期指定席で「のぞみ」利用の場合15,130円、「かがやき」利用の場合で15,510円なのに対し、バスは片道6,900円、往復でも12,460円であり、バスの価格訴求力は大きいと思われる。

12月1日からは、名古屋・岐阜・京都・大阪と高山を結ぶ高速バスの利用者も、高山―古川間の路線バスへの乗継割引が利用可能となった。平日の同区間は30分に1本の頻繁運転で、運賃は通常370円のところ、乗継割引だと210円となる。JR高山線の高山―飛騨古川間は、特急「ひだ」も含めて日中ほぼ1時間に1本、運賃は240円なので、フリークエンシーに加えて安さでも濃飛バスが優位に立ったと言えよう。

濃飛タクシーが運行している「聖地を巡るタクシー」(写真:濃飛乗合自動車)

さらに、濃飛乗合自動車のタクシー事業(通称:濃飛タクシー)は、「聖地を巡るタクシー」の運行を開始した。5人乗りだと、飛騨古川駅前発で2時間コース16,250円、3時間コース22,750円、4時間30分コース35,750円。時間制運賃のため、タクシーを利用するにしては手頃な価格となっている。だが、飛騨古川駅から徒歩で行けない「聖地」が、駅から10キロメートルほど北にある高山本線角川駅近くの落合バス停だけであることなどから、2016年中の利用は1件に留まっているという。

2カ月間に37都道府県から観光客が

飛騨市が「君の名は。」に力を入れるのは、来訪者数の実績からも納得できる。その数は昨年11月までで推計3万1000人。古川の年間観光客数は23万~24万人というから、実にその1割以上が映画の封切り後3カ月間に来訪し、既存の観光客数を押し上げていることになる。

現地を見た印象では、この先も息長く来訪者が続く様子を感じた。古川の町中にある「飛騨古川さくら物産館」の売上は、前年比で2倍を超えた月もあったという。「君の名は。」のパネル展を開催したり、映画に出てくる組紐体験を実施したりした効果だそうだ。

また「聖地」の1つである落合バス停にノートを置いたところ、書き込みは約2カ月で3冊分に達し、ここに書かれた住所をまとめたところ、37都道府県からの来訪が記録されていたという。これは、わずか2カ月の間にほぼ全国からの来訪者があったことを意味している。

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