「TPP交渉は、あっさり決着」と読む理由 吉崎 達彦が読む、ちょっと先のマーケット

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TPPは、意外に「あっけない妥結」も

この間、国内における各省庁間の利害調整は困難を極めよう。そうだとしたら、TPPに関連する主要閣僚は妥結まで替えられなくなる公算が高い。巷間、9月の自民党役員人事の任期にあわせ、内閣改造が行われるとの観測が絶えない。そりゃま、大臣適齢期の議員を大勢抱えた今の自民党には、「大幅改造」を求める声が少なくないだろう。しかるに、外務、財務、経済産業、農水あたりの大臣をこのタイミングで替えるとなると、「TPPでウチの主張が通らなくなる!」という現場の焦りが浮上するだろう。ここは安倍首相としても、「主要閣僚は留任が不可避である」と説明する方が、党の内外で余計な恨みを買わなくて済むという計算が成り立つ。

次にTPPは、交渉の中身がややこしい。多分野にわたるだけに、「知的財産権で連携し、投資で様子見し、市場アクセスでガチバトルする」みたいな使い分けが必要になってくる。さらに言えば、「アメリカをなだめすかし、豪州を味方につけて、ベトナムを罵倒する」みたいな局面もあるかもしれない。

そうだとすると、TPP交渉担当者の責任はきわめて重い。あまりいい例ではないかもしれないが、たとえば「豪州を味方につけるために、捕鯨をあきらめる」といったような、かなり複雑な取引を迫られることもあるのではないか。そのためには大胆な内部調整が必要になるわけだが、これでは力のない大臣を抱えた役所はお気の毒ということになる。と同時に、これは日本外交にとっては重要な進化過程といえるだろう。

もうひとつ、少し先の話になるが、TPPが妥結した後はどうなるかも考えておく必要があるだろう。かつてウルグアイラウンドが妥結した際は、6兆円もの農業対策費が出た。今回は財政事情もあり、そんなに出るはずがないのであるが、かといって1兆円以下ということもなさそうに思える。けっしてスズメの涙などではあるまい。すでに農業団体などは、そのことを強く意識しているはずである。

利益団体というものはその名の通り、利益を得れば妥協するものである。というより、後で妥協して利益を得るために、普段から強く抵抗するのである。そういう「オトナ」の人たちを抑え込むノウハウは、自民党政治にとっては自家薬籠中のものである。おそらく妥結の瞬間は、あっけないものになるのではないか。TPPに対する原理主義的反対論者たちは、その瞬間に意表を突かれることになるかもしれない、と予言しておこう。

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