【洞爺湖サミットに何を期待するか】(第4回)グローバルな平和育成への契機(中編)

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●安保理事会の平和育成機能の強化

 平和と安全保障に第一義的責任を持つ安保理は、構成と機能の両面で新たな時代への適合を求められてからもう十数年経つ。少数でなければ迅速な決定が困難と言われるが、軍事大国中心の危機管理の試みは近年来殆ど不成功か、余りにも遅きに失する状況である。

 いずれも核保有の5つの軍事大国が国益と覇権を求め不協和を繰り返す限り実効性のある紛争解決は遅れ、ルワンダでは50万人、スーダンでは30万人、コンゴでは数百万人ともいわれる人命が失われた。紛争予防、平和維持、平和の執行、平和構築などの多面にわたる平和育成策を迅速かつ実効性をもって推進するためには、人々の目線に立って人間の安全保障(人々の保護と能力強化)に現地で尽力する国際NGO や地域社会の代表が、安保理の政策プロセスにも参加する機会を与えられる必要がある。また非国家アクターによる平和育成キャンペーンを結集し、軍事大国に対する「平和覇権争い」をあえて行う国々が常に安保理に加わっている構成となれば機能強化は促進されるに違いない。

 平和憲法の下、軍事的には極めて抑制的道を歩んできた日本は、経済力、技術力に支えられた「平和育成の前衛」となり、国際公益の世話役となることを志す他の国々とともに安保理の脱軍事化を促進する立場にある。同志の国々は、国連と国際社会全体に立派な知的貢献を行ってきた中小国でもよいし、大国の被害を蒙った経験から人類社会の連帯性を求め行動する途上国でもよい。

 安保理におけるこのようなリーダーシップへの期待は高まるであろう。また、1956年スエズ国連緊急軍を総会が設置した前例に従い、総会決議による迅速な平和機能の復元と発展を主導するのも重要である。さらに、平和育成の前衛となる証左として、日本は国連による平和活動には全面的に参加することに国民的総意をまとめることが望まれる。大量虐殺などの緊急事態や、「破綻国家」や「ならず者国家」が国民の生命を護れない、或いは護ろうとしない場合には国連サミット総会が2005年に採択した画期的原則「保護する責任」にしたがい、国連が平和の執行を決定するならば、これを支持し参加する用意があること、しかし平和憲法違反につながるような、国連の枠外の多国籍軍には今後は不参加をあらかじめ表明しておくべきである。

 このように、「平和協力国家」構想から一歩踏み込んだ日本発の「平和育成」構想が、平和を希求する世界のすべての人々にアピールし、日本が平和勢力と協働して実績を挙げていく時、大多数の国と人々から歓迎され、求められるかたちで、日本は安保理の常任理事国となることにも新しい途が開けよう。
第5回に続く、全6回)

功刀達朗(くぬぎ・たつろう)
国連大学高等研究所客員教授
国際協力研究会代表
東京大学中退、米国コーネル大学で修士、コロンビア大学で博士号。国連法務部、中東PKO上級法律顧問を経て、外務省ジュネーブ代表部公使、フランクフルト総領事、国連事務次長補、カンボジア人道援助担当事務総長特別代表、国連人口基金事務次長を歴任。90年国際基督教大教授、のち同大COE客員教授。編著に『国際協力』(95)、Codes of Conduct for Partnership in Governance (99)、『国際NGOが世界を変える』(06)、『国連と地球市民社会の新しい地平』(06)、『社会的責任の時代』(08)など。
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