長期低迷続く欧州経済、通貨が暴落しないワケ 金融政策の効果は限られるが、通貨は安定

拡大
縮小

物価格差を反映?

ユーロ圏は資金の移動性が高い一方、労働力=人の移動は簡単ではない。またドイツに倣って、労働市場の流動化へ向けた改革を進めようとしているが、これにも痛みを緩和するための財源が必要だ。

共通通貨、共通の金融政策の下では、所得移転の仕組み、いわゆる財政統合が必要になる。そのためには条約の改正が欠かせないし、政治的にそのハードルは高い。債務危機国の疲弊を食い止めるには時間がかかる。

経済の長期低迷が続く中で、通貨ユーロは底堅く安定している。一時は崩壊の危機すら叫ばれたのがウソのようだ。ユーロはドル、円と並ぶ規模の通貨であり、資金が南欧からドイツに流れても、ユーロ圏内の動きだ。一方的なユーロ売りは続かないという強みがある。

それどころか、今は堅調といってよい動きだ。この謎の答えについて、みずほ銀行マーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏は、「ユーロの『円化』が進んでいる」と見る。すなわち、「ユーロは対ドルで、インフレ率の格差を反映して通貨の価値が上がっているのではないか。歴史的に見ても、ユーロの対ドル相場は購買力平価が底値で、そうであれば、1ユーロ=1.20ドルが底値。今後、物価の格差が開いていくとすれば、むしろ『実体経済が悪いからユーロは堅調』という相場になっていくのではないか」というのだ。

憂鬱な均衡である。まずは、域内の格差拡大を食い止められるかどうかが、欧州の課題だろう。

(写真:ロイター/アフロ 週刊東洋経済2013年7月20日号

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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