相模鉄道が朝の列車を「あえて」減らしたワケ 本数や車両数削減で何が変わる?

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相模鉄道が輸送力を下げた理由は、ほかにも2つ考えられる。1つは限界いっぱいの輸送力はやはり無理があったからというもの。1時間あたり30本の列車が設定されるということは、平均2分間隔で列車がやって来ることを意味し、乗務員、駅員はもとより、車両、軌道、電気、信号などの現業部門にとっても負担は大きい。1時間当たり27本の列車ならば平均して2分13秒間隔になる。この状態でも大変であろうが、30本運転することを考えれば多少の余裕は生じる。

2つ目の理由は、営業収支との兼ね合いによるものだ。輸送力の維持にはコストを要するから、鉄道事業者としては必要以上に混雑率を下げることで営業利益が減少するのはできることなら避けたい。ましてやラッシュ時の旅客の大多数は、定期乗車券という割引率の高い運賃で乗車している。このような経営上の判断によって、輸送力の引き下げが実施されたのではないだろうか。

いま挙げた説は、相模鉄道の営業収支の推移からも推測することができる。朝の混雑時1時間の輸送力が、営業利益の増減にまつわる直接の要因と言えるかどうかは何とも言えないが、同社が輸送力を引き下げた2003、2005、2006の各年度に、営業利益は前年度比でそれぞれ2.0%、8.1%、6.4%増えている。同じく輸送力を引き下げた2009年度は営業利益が1.8%減少したものの、2001年度から2011年度までの間に5回記録した営業利益の減少率と比べると最小だ。

3本減ると年間8400万円が浮く

ちなみに、相模鉄道で列車や車両を1キロメートル走らせた場合に要する直接経費の運送費は、2013年度のデータに基づけば列車1本あたりでは3128円、車両1両あたりでは322円である。相模鉄道本線の横浜-海老名間の営業キロは24.6キロメートルであるから、運送費は列車1本あたり7万6949円、車両1両あたり7921円だ。

案外少ないといっても、1年間では列車1本あたり約2800万円余、車両1両あたり約290万円となるので軽視できない。朝のラッシュ時に3本の列車を削減した結果、年間8400万円の運送費を減らすことができるほか、10両編成を8両編成に短縮するだけでも列車1本当たりの運送費は年間で580万円浮かせることができるのだ。

相模鉄道は民営の鉄道事業者であるから、通過人員の動向を見ながら輸送力をきめ細かく調整して営業利益の最大化を図っていたとして、それは当然の企業努力だと言ってよい。しかも、国土交通省が策定した混雑率の目標値である150%も下回っているので、利用者はともかく、外野から文句を言われる筋合いもないのだ。

もしも小池都知事がこのデータを見たら立腹するかもしれない。蛇足ながら、相模鉄道は神奈川県だけで鉄道事業を展開しており、都知事の管轄外ではある。

梅原 淳 鉄道ジャーナリスト

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うめはら じゅん / Jun Umehara

1965年生まれ。三井銀行(現・三井住友銀行)、月刊『鉄道ファン』編集部などを経て、2000年に独立。著書多数。

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