トランプ大統領は日本に何を言ってくるのか 繰り出しそうな政策を事前検証してみた

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1つは1974年通商法122条だ。これは表のように「米国の深刻な国際収支不均衡」を発動の法的根拠とするもので、最大15%の関税率引き上げ、輸入数量制限などを最長150日間発動する(期間延長は議会承認で可能)というものだ。「米国の貿易赤字の約半分は中国だが、日本は中国に次いでドイツと並ぶ規模であるため、トランプ政権がこの条項を発動する可能性はある」(渡辺氏)。ちなみに2016年で米国の貿易赤字は約7500億ドル、うち対中国が3470億ドルで、対日本が689億ドル、対ドイツは648億ドルだった。ただ122条は表のように最長150日間の期間限定であり、その効力は小さい可能性がある。

再びスーパー301条を振りかざすのか

もう一つは、1974年通商法301条(スーパー301条)だ。貿易協定違反、貿易障壁など不公正な貿易慣行に対し、相手国と交渉を行うものだ。交渉後に、不公正な貿易慣行が是正されないと判断した場合は、関税率引き上げなどの報復措置を導入することができる。1988~89年には日本をターゲットに復活した経緯がある。ライトハイザー米通商代表候補は特に対中国において、長年利用されてこなかったスーパー301条の復活の必要性を過去に主張していたことがある。

ここで注意すべきは、WTO(世界貿易機関)はスーパー301条のような一方的な措置を導入することを禁止していることだ。また、為替操作国認定や反ダンピング関税なども、トランプ政権が無茶な理由でそれを適用すれば相手国はWTOに提訴することになるだろう。通常ならWTO協定違反などが予想されれば、そのような手は打たないと相手国も考え、交渉を慎重に進めることができる。だが何事も異例続きのトランプ政権は何をしてくるかわからない。

相手国がWTOに提訴しても、その紛争解決手続きを行っている間は米国の関税率引き上げなどの措置が取られ続ける。さらに、米国がWTO紛争解決手続きで負けてもその裁定を受け入れない場合、相手国は対抗措置を取ることしかできない。世界最大の経済大国かつ輸入大国である米国に対抗措置を取っても、相手国側に実があるかは不明だ。こうしたことを踏まえたうえで、なりふり構わず自国の利益第一で「ディール」(取引)を仕掛けてくるのがトランプ政権だ。そこに最大の厄介さがある。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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