シャープ、業績上方修正でも残る液晶の不安 サムスンと決別、「AQUOS」復権狙うが…

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そんな中、昨年末、シャープとSDPは大口顧客である韓国・サムスン電子への液晶パネル供給を停止するという大きな賭けに出た。サムスンとのテレビ向け液晶パネルビジネスは、物量は大きいものの利益率は低く、液晶事業の採算改善の足かせとなっていた。これを問題視したテリー氏がサムスンとの取引から手を引くよう促したものとみられる。

供給停止を受けてサムスンは1月、SDP、シャープ、黒田電気(液晶パネル商社)に対し仲裁を申し立て、4億2900万ドルの損害賠償と液晶パネル供給の再開を求めた。サムスンと鴻海はこの件に関してノーコメントを貫いているが、決着には時間を要しそうだ。

テリー氏は「シャープのテレビ販売台数を2018年までに1000万台に引き上げる」という目標を掲げている。北米などライセンス販売に移行している地域についても再び自社生産品を流通させ、世界に「AQUOS」ブランドを広めることでサムスンの穴を埋められると踏んでいるのだ。ただ、価格下落が進むテレビ市場でシェアを伸ばすには、低価格戦略で利益を削らざるを得ない。テリー氏の思惑通りとなるかは未知数だ。

2017年は戴社長のラストイヤーか?

「拡大路線を採っていく」と宣言した野村勝明副社長。次代のリーダーや組織作りも課題となる(記者撮影)

もうひとつ懸念されるのは、今後の組織体制だろう。

早くも構造改革の成果を見せつけた戴社長だが、かねてから「自分はシャープ再生までのリリーフ社長で、2017年度に純利益を黒字化し、2018年に東証1部への復帰を実現できたら社長を辞めて台北に帰る」と公言している。鴻海の副総裁を兼任する同氏は、早期にミッションを完遂し本国へ戻ることが求められている。

実際のところ、東証1部への復帰は容易ではない。そもそもシャープは2015年度決算で債務超過に陥ったため、東証2部へ指定替えとなった。その後、鴻海からの出資で債務超過は解消されたが、1部指定を再度受けるためには新規上場時並みの審査を受ける必要があり、一般的に審査期間は3カ月程度。時価総額など定量的な要件のほか、収益基盤の安定性や企業経営の健全性など定性的な要件をクリアすることが求められる。

仮に2017年度に2期連続の営業黒字や最終黒字化を達成したとしても、必ずしも収益基盤が安定したと認められるわけではない。また、鴻海傘下となった後も経営の独立性を確保していると証明する必要がある。そのため、戴社長は「鴻海による子会社化」などの表現をメディアが使うことを嫌っており、シャープも今後、独立色を打ち出す必要がありそうだ。

決算上は順調な回復を実現しているシャープ。ただ、回復を本物にするためには、液晶事業を軌道に乗せ、戴社長の後を任せられる経営者を育てることが欠かせない。正念場はまだ続いている。

田嶌 ななみ 東洋経済 記者

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たじま ななみ / Nanami Tajima

2013年、東洋経済入社。食品業界・電機業界の担当記者を経て、2017年10月より東洋経済オンライン編集部所属。

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