プーチンを抑え込むヒントはロシア史にある 西側の足並みが乱れた時に、彼らは出てきた

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1976年に米国のキッシンジャー国務長官(当時)は、ロシアがこれら衛星国との「有機的」な関係を確立できなかったと指摘した。実際にソ連崩壊は、衛星諸国による離脱によって加速した。

さらに、ウクライナや南コーカサス諸国などが独立を達成したため、ロシアの支配地域は1917年の革命直後よりも縮小する結果となった。

そして今、プーチン大統領が経済的にも地政学的にもロシアを再び偉大な国にしようとしている。

ロシア史をさかのぼっての教訓は、西側が分裂したときにロシアの帝国主義が繁栄した点だ。1939年にヒトラーとスターリンが独ソ不可侵条約を結んだ時や、1807年にナポレオンとアレクサンドル1世が仏露協調の講和条約を結んだ時が、これに当たる。足並みが乱れた米英がスターリンと結んだ1945年のヤルタ協定も、忘れてはならない。

近年ではNATO(北大西洋条約機構)とEU(欧州連合)が、中欧とバルト三国に向けて拡大を図ったが、それは欧州の安全保障に不可欠だった。そうしていなければ西側は、失地回復を狙うロシアと権力闘争を強いられていたからだ。

あきらめる必要はない

振り返ればロシア革命とソ連崩壊は、欧州と世界の政治体制を大きく変えた。この二つの出来事の直後、ロシアは周辺諸国と調和のとれた関係を構築することができないことを実証したのである。

ただし今後、西側が周辺諸国の独立を長期にわたって着実に支援し続ければ、ロシアはその状況を受け入れるだろう。そして歴史の方程式を破って国内の開発に集中し、周辺諸国と平和関係を構築することが自国の長期的な利益にかなうことに、最終的には気づくはずだ。

そうした状況になっていないのは確かだが、あきらめる必要はない。 世界には安定かつ繁栄した、そして平和なロシアが必要である。それはロシアの隣国すべての独立と主権が断固として支持されることによってのみ達成することができる。

週刊東洋経済2月11日号

カール・ビルト スウェーデン元首相

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1991~94年の首相在任時にスウェーデンのEU加盟交渉を行った。

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