エジプトで"味の素"を売り込む秘訣 エジプトの食卓に革命を起こす男(中)

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再びの試行錯誤。しかし、後にキーメニューに選ばれるロッズは、この時点ではまったく候補に入っていなかった。理由は、ロッズはスークで売っていないからだ。

同じコメの料理でも、スークなど街角で見かけるのは「コシャリ」だ。コメに、豆やパスタなどの具材を入れて炊き込むが、トマトやタマネギを使ったうま味たっぷりのソースをかけて食べるので、味の素の出番はないと判断していた。

ロッズに結びつくヒントは、エジプトに長く住み、エジプト人家庭に入り込んでいた日本人からだった。

「家庭でメインである遅めのお昼ご飯には、たいていロッズを食べます」

家庭で作るロッズなら1回の使用量も多く、頻繁に食べられるはず。エジプト市場には、世界最大の食品会社ネスレ社が「マギー」で先行していたが、ロッズには使っていなかった。なにより大きかったのは、シンプルなロッズの味わいが、味の素を加えることで劇的に変化したことである。

やはり街頭の嗜好テストも良好。味の素入りロッズを97%の人がよりおいしいと支持した。「ロッズに味の素」。スークでの手当たり次第の試食から、ここまで20日あまり。一気にキーメニューは決まった。

ひとつ聞いてみたいことがあった。

味の素を使って味が変わる、おいしくなる食品はいろいろあったのに、なぜひとつだけを選んだのか。さまざまな料理への提案をなぜ行わなかったのか。

「『なんにでも使える味の素』だと、『なんににも使われない味の素』になってしまう。一点突破のキーメニュー戦略を取らなかったら、誰にも味の素を理解されなかったでしょう」(宇治社長)。

歴戦のリテールマンの仕事

キーメニューが決まれば、いよいよ実際に売らなければならない。どこで売るか。販売エリアの選定は、セールス担当の島田周雄さん(37歳)を中心に進められる。

人と商店がひしめくインババ地区のスーク。行商の主戦場だ。

「古いスークに人が集まり出すのは11時ごろから。その前に、新しい店ができ始めたこのエリアを回ります。今後、町が大きくなれば、こちらも大きなスークに成長するはずです」

インババ地区を歩きながら島田さんは話す。地方からの人口流入があり、新旧住民が入り交じる町。同じエリア内でも人の流れや、スークの購買力には差異がある。同じ店がいつも同じように買ってくれるとも限らない。

島田さんはほぼ毎日、宇治社長も率先してセールス現場に同行している。直接、継続して足を運んでなければ、町やスークのそうした違いを感じることは難しい。細やかなスーク営業は、変化に迅速に対応してこそ強みだ。

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