「介護」はこれからもっと過酷で悲惨になる 介護保険制度がどんどん難解になっている

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──初心者には初耳の話だらけです。

ええ、向こうから教えてはくれませんから。そこがおかしいのです。たとえば地域包括支援センターは利用してくれるのを待っていても、自ら情報を発することはありません。

介護というと寝たきり老人の食事や排泄(はいせつ)、入浴の世話など、キツい“後始末”の印象が強いけど、本来そうではなく、長年続けてきた生活習慣へ戻すことです。でも現実には、自分の口から食べてもらう方法、自分でトイレで排泄してもらう方法、普通のお風呂に入ってもらう方法を探らず、食事は鼻からチューブ、排泄はオムツ、体はふくだけか入浴してもストレッチャーによる機械浴とか、手抜き介護の施設が多い。本当にあるべき介護をやっていけば、これほど感謝される仕事はないし、お年寄りも幸せになる。亡くなるギリギリまで普通の生活を送れるのです。

薬で苦しむ被介護者や家族

──認知症を疑ってもやみくもに受診するな、と書かれていますが。

地域の家族会でアドバイスをもらってからのほうがいいと思います。

実は認知症医療に問題あり、と考えているんです。受診するとその日から薬物療法が始まり、そうすると興奮して暴れだす、暴言を吐くなどさまざまな副作用で問題が起こり、それに対し今度は向精神薬が処方され、お年寄りがダメージを受けていく例が少なくない。その後、歩行障害や嚥下(えんげ)障害の副作用が加わっても、これが認知症です、進行性の病気だからこういうものです、と医師も薬害であることを認めないんです。

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薬で苦しむ被介護者・家族がたいへん多いので、認知症の医療を安全なものにしないと介護にならんなという問題意識があります。認知症介護の苦しみは介護現場か、もしくは家族しか見ていません。診察室で暴れることはめったにありませんから。取材を通して私が痛感するのは、介護の問題は突き詰めれば認知症の問題になり、認知症の問題は突き詰めれば薬害の問題ということです。

この本の裏テーマは、自分が介護を受ける前に読む本、です。後始末介護と表現したような劣悪な介護とよい介護を見分ける目を養うとか、申請主義の制度の問題、悪い業者の囲い込みに遭わない方法とか、本人のためにならない医療を受けないこと、胃瘻(いろう)をはじめとする延命や終末期医療の問題など、自分が介護を受ける前の予習本としても書きました。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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