「新幹線を全国に」田中角栄の鉄道政策とは? 「日本列島改造論」に見る45年前の未来図

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全国を結ぶ新幹線網について触れる一方、田中は在来線についても積極的な考えを持っていた。複線電化の推進や、複々線化なども提言しているほか、「レールを耐久性、安定性の高いものに取り替えて列車のスピードアップをはかる」と、土木建築業、さらには鉄道を経営していた立場ならではともいえそうな内容もある。

だが、特に重要なのは、当時すでに赤字による廃止が取り沙汰されていた地方路線や、衰退が始まりつつあった貨物輸送についての記述だろう。

「日本列島改造論」が発表された1972年当時、すでに国鉄の赤字は問題となっていた。国鉄は1968年、経営再建に向けて全国の赤字ローカル線83線・約2590キロメートルを選定し、これらの廃止を進める方針だった。だが、田中は「国鉄は採算とは別に大きな使命を持っている」として、「私企業と同じ物差しで国鉄の赤字を論じ、再建を語るべきではない」との考えを持っていた。

赤字線を撤去すれば過疎化が一段と進む

その論拠として田中が挙げたのは、かつて鉄道によって北海道の開拓が進み、大きく人口が増加したことだ。赤字ローカル線の廃止についても「鉄道が地域開発に果す先導的な役割は極めて大きい。赤字線の撤去によって地域の産業が衰え、人口が都市に流出すれば過密、過疎は一段と激しくなり、その鉄道の赤字額をはるかに超える国家的な損失を招く恐れがある」と論じた。

旧国鉄時代に廃止された白糠線(北海道)の橋梁(写真:LEPANNEAU / PIXTA)

実際に、田中内閣時代に赤字線廃止の方針はストップした。また、田中が設立に関与したとされる日本鉄道建設公団(鉄建公団)によって各地の地方路線建設も進められた。鉄建公団は、国鉄に代わり新しい路線を建設し、国鉄に貸し付けまたは譲渡するための公団だった。幹線や都市部の輸送力増強などのために、国鉄が地方路線の整備にまで手が回らなくなり、その建設をするためにつくられたものだ。

地方の発展のためとの考えに立った施策ではあったものの、こうして開業した地方路線が国鉄の赤字を増大させた一因なのは確かだ。鉄建公団が建設した路線の多くは開業前から赤字が確実視されており、開業はしたものの結局は廃止された路線も多い。結果として国鉄の赤字は拡大を続け、最終的には分割・民営化の路をたどることになった。

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