ソニー「巨額減損」、実は今後のプラス要因だ 新ビジネスモデルに着手するチャンス

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ネットフリックスやアマゾンが、安定した加入料収入を背景に、独占配信の作品を自主制作していることは多くの方がご存じだろう。一度加入した消費者は観たい作品があるかぎりやめたりはしない。そこで得られた利益は、それまで加入していなかった消費者層を獲得するための独占配信作へと投資され、さらに加入者を増やしていく。

たとえばネットフリックスは昨年、ヒップホップ文化黎明期を克明に描いた「ゲットダウン」という作品をバズ・ラーマン監督で制作、ヒットさせたが、同時期には黒人の人権運動にまつわる数作品を買い付けて配信。それと並行してヒスパニック系向けコンテンツの充実も図るなど、加入者の幅を広げる施策を大胆に打ってきている。

メディアネットワーク部門は順調

こうした中で、ソニー・ピクチャーズは加入者型映像配信サービス事業者向けの映像作品制作を行ったり、メディアネットワーク部門を強化して独自の配信ネットワークを構築、あるいは映画作品のキャラクターを横展開するディズニー的なフランチャイズビジネスへの拡張を指向した動きを見せている。とりわけメディアネットワーク部門は、資産評価1145億円の営業権を保有しており、その事業は順調に伸びている。

もちろん、すべてがうまくいっているわけではない。たとえば昨年、ソニー・ピクチャーズは「ゴーストバスターズ」をヒットさせたが、そのフランチャイズ展開はうまく機能していない。また、加入者型映像配信サービスへと視聴者の作品の楽しみ方が変化する中で、さらにロングテールの収益モデルになっていく中、「アラビアのロレンス」のように長期間にわたって楽しまれる作品が今後も登場するのか疑問もある。

とはいうものの、これはソニー・ピクチャーズだけでなく、あらゆる映画会社が抱えている問題だ。昨年10月、業界最大手の映画会社を抱えるタイム・ワーナーが、通信会社のAT&Tに買収されることが明らかになったのも、今回の減損に至る経緯と根っこは同じと言えるだろう。

ホームエンターテインメント事業の収益減少は以前から見込まれていたもの。減損によるキャッシュアウトがないことを考え合わせれば、短期的な株価への影響はあったとしても、中長期的には映像エンターテインメント事業全体へのプラス要因のほうが大きいのだ。いずれにしろ、今後1~2年の間にどれだけ思い切ったネット配信戦略を打ち出していけるかが、事業の成否を決めることになりそうだ。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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