松本清張の「作品力」が今でも評価される理由 担当編集者が明かす「精緻すぎる手帳」の凄み

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松本清張の取材現場を担当編集者が綴る(写真:UYORI / PIXTA)
チューリッヒでプライベートバンカーを取材した松本清張のかたわらには、新潮社の担当編集者がいた。ほとんどメモもとらずに銀行家を質問攻めにした清張の(黒革の手帖ならぬ)黒背の大学ノートは、翌朝、真っ黒に染まっていた。

松本清張の日記

当記事は「GQ JAPAN」(コンデナスト・ジャパン)の提供記事です

2017年になって、ひと月がたつ。「よーし」と決意して日記を書き始めたかた、続いてますか? 先日、会議の場でそんな話題になって、続いてるよと胸を張った人はいなかった。

かくいう私も、以前はかなり詳しい日記を書いていたが、いまはさっぱりやめてしまった。しかし(と、言い訳を始める)、編集者という職業の私にとって、自分が日記を書くことよりも大事なのは、「人に、日記を書くよう勧めること」なのである。

中東の紛争国の大使として赴任する学生時代の友人にも、毎朝5分でいいから前日の出来事と思いを記しておくように促した。

何か重要な地位についた人、大きな仕事をやり終えた人に、自伝や回顧もののノンフィクションを書いてもらうのは、編集者の主たる仕事のひとつ。しかし、世間の耳目をひくようなことを成し遂げた人のところには、「書きませんか」というオファーが殺到する。あらかじめ「大願成就したら、書いてくださいね」と頼んでおけば、優先権を得ることができる。

しかし、さらにしかし、である。いざ執筆にかかって、多くの人がはたと気づくのは、大きな流れはともかくとして、ディテールを忘れてしまっていることだ。10年かけて育てた事業について書く段になったとき、最初のころの展開の細部や、自分の心の揺れ動きなどは、かなり記憶が薄れている。

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