民主党が参考にすべき自民党の「執念」と「反面教師」

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民主党が参考にすべき自民党の「執念」と「反面教師」

塩田潮

 ねじれ政局での初の通常国会が終わった。
結局、与野党の攻防は次期総選挙まで決着がつきそうにない。政権獲得に挑む民主党はこれから苦しい胸突き八丁の坂道を迎える。だが、実は自民党結党後の53年の歴史を振り返って、胸突き八丁を乗り切る手本になる実例は存在しない。
 現実に政権奪取の実現可能性を持つ巨大野党が政権獲得作戦を実行した事例を探すと、あるのは細川・羽田政権時代の野党自民党のケースだけだ。このとき、野党に転落した自民党は、まず党改革を打ち出したが、それはポーズにすぎず、実際に推し進めたのは与党の非自民8党派の分断と、細川首相のスキャンダル暴露など表技と裏技を織り交ぜた倒閣工作だった。「政策よりも政争」という戦法で与党復帰を果たした。

 だが、今回は、与党は寄り合い所帯の8党派ではなく、単一政党だ。1年3ヵ月以内に必ず総選挙が行われる。93~94年の自民党はたっぷり与党を経験した人たちの集団だった。与党分断は簡単ではないが、一発勝負の総選挙で政権奪取の可能性がある。
 事情の違いは大きいから、93~94年の自民党は政権奪取の手本にはならないかもしれない。ただ一つ、民主党が見習うべき点があるとすれば、政権への凄まじい執念であろう。
 しかし、自民党は、言ってみればその執念だけで政権に返り咲いた。野党転落を教訓にした意識変革や党改革、政策や路線の総点検といった努力を後回しにして与党に復帰したツケが、いま苦境となって降りかかっているのである。民主党はその点を反面教師にしなければ、仮に政権獲得に成功しても、同じように、早晩、苦境に見舞われるだろう。
 政権への凄まじい執念と合わせて、国民を巻き込んだ政治の構造改革という実験を成功させることができるかどうか。勝負のポイントはそこではないか。


塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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