(第1回)会社の第一の目的は利益をあげることではない

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●利益を目標にするとなぜダメなのか

 近江商人は日本のビジネスの源流のひとつだといわれています。その教えとして有名なのが「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の考え方です。近江商人は日本全国を行商して歩いた人たちですが、その基本行動は仏の心で商品を全国各地に届けることでした。各地に不足しているものをその土地の人のために届けるというのが彼らの根源的な役割だと認識していました。北海道には米がない、内陸地方には塩がない。それぞれの地域で足りないものを届け、その地域の人の役に立ち、その行商という活動を通して利益をあげさせてもらう。そして近江の豪商たちは、莫大なお金を学校建設、道路工事、治水事業などに寄付していたのです。

 このような高い志を持って商売していた人たちがその後どうなったか。近江商人の流れを汲む現代の企業としては、伊藤忠商事、丸紅、�島屋などがあります。自分の利益ではなく、「三方よし」を基本にして商売をしてきた会社が300年後にビッグビジネスに育っているのです。

 会社が利益を追求することは大切です。それは、税金を払って社会に貢献するとか、株主に配当を支払うとかいうことだけでなく、利益をあげられない会社は結局だれも幸せにできないからです。利益が出せなければ、お客様も従業員も取引先も、そして経営者自身も不幸になります。私は中小企業のお手伝いをしてきて、利益を出せない会社の悲惨さをいくつも見てきました。

 しかし、日本では昔から「金を追うと金は逃げていく」といわれてきました。企業の不祥事が後を絶ちませんが、問題を起こす企業に共通することは、お客様よりまずは自分の会社の売上げや利益を大切にしていることです。地震がきてビルが倒壊しようとも、そこに住む人たちより自分の会社の利益のほうが大切。お客様が食あたりになろうとも自分の会社の売上げのほうが大切。そんな自分の会社のことだけしか考えていない会社が問題を起こしているのです。

 自分の会社の利益のことだけを一番に考えているような会社が永きにわたって繁栄したことはあるでしょうか。あなたがだれかとお付き合いをするとき、自分のことしか考えてないような人とお付き合いしたいですか。企業といっても所詮は人の集まりですし、企業の判断は結局その中にいる人間が行っているのです。物やサービスを購入できるのも個人としての人間と人の集まりである団体しかないのです。
 いつも自分のことしか考えていない人の集団が、人間であるお客様から嫌がられるのは当たり前です。自分のことしか考えていない、つまり自社の利益のことしか考えてない会社は、いつか世間から大きなしっぺ返しを受けるのです。
國貞克則(くにさだ・かつのり)
1961年生まれ。東北大学工学部機械工学科卒業後、神戸製鋼所入社。
プラント設計、人事、企画などを経て、1996年米国クレアモント大学ピーター・ドラッカー経営大学院でMBA取得。2001年ボナ・ヴィータ コーポレーションを設立して独立。中小・中堅企業の社長の右腕として財務・人事・戦略分野などの本社機能をサポートすると共に大手企業の中間管理職を対象に会計・リーダーシップ・戦略論の教育を行っている。また、子ども向けの竹とんぼ工作教材を販売する「竹とんぼ屋」の店主でもある。
主な著書『財務3表一体理解法』(朝日新書)、『「財務3表のつながり」で見えてくる会計の勘所』(ダイヤモンド社)、『書いてマスター!決算書ドリル』(日本経済新聞出版社)、、訳書に『財務マネジメントの基本と原則』(東洋経済新報社)がある。
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