「ホームドア計画がない危険な駅」は、どこか 利用者10万人超の全265駅を独自調査し判明

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一方、ソフト面の対策は従前と比較してかなり踏み込んだものとなっている。ただ、よく考えてみると、丁寧な声がけとは単なる声がけではなく、場合によっては、安全に乗車するまで見届けるということだ。その分だけ業務量が増えることを意味する。現状の人員で対応できるのか、あるいは駅スタッフの人数を増やすことになるのか、鉄道事業者にとっては悩みどころだ。

たとえば蕨駅の事故では、改札口にいた駅員は死亡した男性が自動改札機を通る際に気づいていたが、声がけをしなかった。もし改札口からホームまで案内すると、逆に改札口には誰もいなくなる。それはそれで不都合だ。これまで駅業務は人手を減らす方向で進んできたが、今後は新たな発想が必要になるかもしれない。

利用者10万人超の駅で完全設置は約1割

もう一つ問題がある。ホームドア設置を優先的に取り組むとされる利用者10万人(1日当たり)の駅を鉄道事業者や自治体のホームページで調べたところ265駅あった。国交省の基準では260駅。違いの理由は複数の路線が乗り入れる場合の駅のカウント方法が国交省と鉄道事業者で異なるためだ。

そのうちどの駅にホームドアが設置されていないのか、今後はどうしていくのか。最も基本的な情報が、今回の検討会では整理しきれていない。「3月までには発表したい」と、国交省の担当者は言うが、それでは遅すぎる。そこで、国交省が過去に作成した資料に鉄道事業者や自治体のホームページなどで確認したデータを加味して、利用者10万人以上の駅のホームドア設置状況を調べてみた。

その結果、駅に完全にホームドアの設置が完了しているのは36駅、全体の1割強にすぎないことが判明した。国交省では「全体の3割程度が設置済み」としているが、これは駅の一部のみに設置されている状態を含めての数字だ。設置済みという駅であっても、片側のホームにしか設置されていないケースがある。「こうした中途半端な状態は非常に危険」と、全日本視覚障害者協議会まちづくり委員会の山城完治代表は指摘する。

ただ、今回の検討会プロセスを通じて、JR東日本、小田急、阪急などの鉄道事業者が新たなホームドア設置計画を発表した。東京メトロのように既存のホームドア設置計画を前倒しする対応を打ち出したところもある。その点では、鉄道事業者の尻を叩いたかいはあったといえる。それでもホームドア設置計画がない駅はまだ全体の3割も残っている。その中にはJR立川駅や西武新宿線・高田馬場駅など過去に視覚障害者のホーム転落事故が起きている駅も多数含まれる。これをどうやってゼロに近づけるかが、今後の課題となる。

次ページ以降、利用者10万人以上の265駅すべてについて、ホームドアの設置状況や予定をまとめた表を掲載した。過去の視覚障害者のホーム事故転落件数(2件以上)と飛び込み自殺件数(5件以上)のデータも合わせて掲載した。ホームドア設置を急がなくてはいけない駅がどこなのかを知る手がかりになるはずだ。

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