日本の「1人あたり」輸出額は44位に過ぎない 本当に「ものづくり大国」といえるのか

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では、なぜ日本の1人あたり輸出額は低いのでしょうか。考えられる答えは2つしかありません。ひとつは、「技術がある」ということ自体が妄想で、日本には世界に求められる技術がそこまではない。そしてもうひとつは、高い技術力はもっているものの、それをしっかりと世界に売り込めていない、ということです。

前者が間違いだというのは、私も26年間日本で暮らしてよくわかっています。日本には他国がまねできない独自の技術が多く存在しています。そうなると、やはり考えられるのは、後者。つまり、論理的に考えていくと、やはり日本は高い潜在能力を有しているものの、それを発揮できていない、という結論になるのです。

しかし、このような認識は日本では一般的ではありません。私自身、このような分析結果を人前でお話しするたび、「反日イギリス人だ」とか「データを恣意的に解釈している」などと反発を受けます。

これにはやはり、マスコミの論調の影響が強いと考えています。日本のマスコミは「一部の特異なケースだけを取り上げて、あたかもそれがすべてであるかのように報じる」ことが多いと感じます。一部の日本企業の実績が優れているだけなのに、すべての日本企業の実績が優れていると置き換えてしまうところなどが、まさに典型です。

実は、トヨタなどのごく一部の企業を除き、日本企業がそれほどに熱心に海外に営業に行っていないことの傍証となる数字があります。ビジネスマンが海外に出掛けると、「海外旅行者=アウトバウンド」としてカウントされることが多いです。

一般に、輸出入が増えれば増えるほど、行き来が増えます。1人あたり輸出額が多い国は皆、アウトバウンドが多いのです。一方、日本のアウトバウンドは世界第27位と、極端に少なくなっています。やはり、輸出が少ない米国も第26位です。輸出が多い国は、日本の4倍程度のアウトバウンドがあるのです(いずれも人口比。CIA、UNWTOの2014年データより筆者算出)。

要するに、この失われた26年間は、やるべきことを地道にやってこなかったのです。今の衰退の要因の一端は、ここにあると思います。

「どうするか」は、日本人の問題だ

ここまで、日本の「ものづくり」が、その潜在能力を生かせていない現状を数字でご紹介しました。読者の皆さんは、「ではどうすればいいのか?」と疑問に思われるかもしれません。

私は経済アナリストであって、どこか特定の専門をもつ業界アナリストでもなければ、輸出業を営む企業の経営者でもありません。「どうすればいいか」は、それぞれの業界、企業によって当然異なりますので、私は「答え」を持ち合わせてはいません。

しかし私は、私の議論に意味がない、とは考えていません。「潜在能力を生かしていない」という状況に目をつむっている日本では、いま、政府の借金が膨大な額に膨らみ、貧困率も先進国トップクラスに上がってしまっています。

特効薬などありませんが、とにかく生産性を上げるという目的をもっていただき、各業界、各企業が工夫して、その答えを出すべきです。日本経済は500兆円という巨大な経済ですから、たったひとりの人間が解決策を考えられるはずはないのです。

まだまだ、生かせていない潜在能力にあふれているということに一刻も早く気づいていただき、ひとりでも多くの経営者が希望をもって創意工夫を重ねれば、必ずや日本は大きな成長を実現できるはずです。その「気づき」のきっかけになれば、これほどうれしいことはありません。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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