中国の「不動産バブル」は、なぜ冷めないのか 大都市のマンションが超人気なワケ

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つまり、大都市に行かないと、明るい未来が見えてこないのだ。

大都市の大きな魅力は、やはり教育インフラが良いことだ。幼稚園からネーティブスピーカーのアメリカ人教師に付いて学べる環境が一般化している大都市と、本物の外国人の顔すら見たことはない農村。大都市の良い学校に入れば、良い大学に進学する確率が高くなり、良い就職先を見つける可能性も高くなる。

そして地方からの人口流入が続く大都市では、子どもを良い学校に入れたい場合に、その学校近辺の住宅「学区房(シュエチューファン)」を持たなければならないケースがある。そして過去の連載でも述べたように、良い学校と学区房は限られており、学区房をめぐる競争はますます激しくなっている。北京のある有名な中学校の近辺にある学区房は、2016年の販売価格が2005年の12倍になった。良い学校に進学させる唯一の方法なので、子どもの教育が第一だと思う中国の親は、高くても「学区房」を買いたい気持ちが消えることはないだろう。

このように、大都市の住宅に需要が集まる根本的な理由は、社会資源のアンバランスにもあり、しばらく解消の見込みはないのだ。

日本の住宅は「賃貸市場」と「売買市場」が併存しているが、中国では、売買市場が圧倒的に主流である。

住宅の「賃貸」がなかった中国

中国には、もともと「賃貸市場」はなかった。都市部では、計画経済時代に「単位(デンウェイ、職場を意味する)」という社会制度の住宅分配によって住宅が無料で提供されてきた。職員は受け身になり、選択する権利も自主的な変更(住み替え)という考えもなかった。

その後、1998年に住宅商品化改革(「商品化」とは市場での売買を認めること)がなされ、全国の都市部で住宅分配制度が廃止された。1軒目の住宅購入時に単位から補助(たとえば販売価格の半分を免除)をもらったり、当時住んでいた家を単位から買い取ったり(中国の住宅の売買は、50~70年間の使用権の売買である)、あるいは貯金やローンを使ってもっと大きくて良いマンションを買うようになった。

住宅を自由に購入できるようになり、何が起きたか。今までたまっていた欲求(面積・部屋の方角・間取り)を一気に「爆発」させて、自分の理想の家を買い、ずっと住み続けている人が多い。

その一方で、結婚するまでは実家暮らしで、結婚すると単位から住宅をもらっていた現在の50代以上の人は、住宅は「もらうもの」で「賃貸」という概念はそもそもなく、「結婚=マイホーム」という意識を持ち、それを子どもにも植え付けている。

上述のように、社会資源の格差という現実問題があるために大都市で就職する地方出身者が増えている。彼らは、最初から就職先の都市で住宅を買うことは不可能なので、賃貸に住むことになる。そして、家賃節約のため、ルームシェアを好む。中国の大学は原則として全寮制であり、1部屋に2段ベッドで6~8人が住むのが一般的なので、その延長線で2LDKに5、6人で住むことに違和感はない。出世してマイホームを持つまで、賃貸で「辛抱の時期」を過ごす。一刻も早く賃貸の状況から脱出できるよう必死になる。賃貸市場は近年の流動人口増から生まれた新市場であり、賃貸住宅に住んでいると貧乏だと思われがちなので、誰もが早く住宅を保有したいと考えている。

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