「日本型教育」は世界で類を見ないほど平等だ ドイツでは小学4年生の段階で将来を決める

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だが最近では、日本の「とりあえず進学」と同じように、「できるかぎりギムナジウムへ」と考える人が増えてきた。ギムナジウムを卒業していれば、大学進学が可能で、職業教育や就職においても有利になるからだ。連邦統計局によると、2004/05年の冬学期の時点では、基礎学校からギムナジウムへ行く生徒は36%、実科学校は24%、基幹学校は20%だった。ところが10年後の2014/15年の冬学期では、ギムナジウム41%、実科学校17%、基幹学校が8%という進学率になっている。現在では、誇り高き職人の卵たちが通っていた基幹学校は、「落ちこぼれが行く学校」といった認識になりつつある。

そんな背景もあり、一部の州では、基幹学校廃止に向けて動き出している。つまり、基幹+実科学校の「職業教育・就職コース」と、ギムナジウムの「進学コース」に分ける、2分岐型にしようというのだ。だが、それでも「ふるい分ける」ことに変わりはない。

そんな教育に対する反動か、最近は新しいタイプの学校が増えてきている。特に総合学校は、第4の選択肢として注目されている。総合学校の形態はさまざまだが、基幹・実科・ギムナジウムの3つの教育課程を取り入れ、生徒が柔軟に進路が選択できるタイプや、日本でいう小中高一貫のようになっていて、早いうちの進路選択を避けるタイプなどがある。また、州によっては、中間学校や地域学校、中等学校など、3分岐型とは異なる制度の学校を認めている。それぞれの学校の制度は違うが、「子どもに多様な選択肢を」といった理念からの改革だ。ドイツは、子どもに平等な教育の機会を与えるために腐心している。

望めば誰もが高等教育を受けられる日本

そう考えると、日本の教育が「進んでいる」ように思えないだろうか。日本では「親の収入による教育格差」などが叫ばれているが、ドイツをはじめ、ヨーロッパのほうがよっぽど階級社会だ。文部科学省の「学校基本調査」によると、2010年の高校進学率は、通信制を含めると98%にも上る。ほとんどの子どもが、義務教育以上の教育を受けているのだ。そんな国が、欧米にいくつあるというのだろう。

高校を卒業すれば、大学に進学する資格がある。偏差値40の高校を卒業したから大学入学資格がない、ということは起こらない。ほとんどの人が高校に進学することから、誰もが大学に行くチャンスを持っている、ともいえる。海外に出てしまえば偏差値は関係ないので、東大でもFラン大学卒業でも、同じ「大卒」だ。そう考えると、日本の教育の平等さは、世界でもトップレベルではないだろうか。

偏差値でふるい分けることはあっても、望めば誰もが高等教育を受けられる環境。それは、日本の教育の強みともいえる。もちろん、教育費の高さ、塾に頼りきりの現状、英語教育の質など、改善すべき点もたくさんある。だが、日本の教育制度にも長所があり、それは世界に誇れるものであることも、忘れてはいけない。

雨宮 紫苑 フリーライター

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あまみや しおん / Shion Amamiya

1991年、神奈川県生まれ。立教大学在学中にドイツで1年間の交換留学を経験。大学卒業後再び渡独。ワーキングホリデーを経て現地の大学へ入学し、現在フリーライターとして活動中。日独比較や外から見た日本など、海外在住者の視点で多数の記事を寄稿している。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

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