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「超域人材」を育てるプログラムの到達点 大阪大学 超域イノベーション博士課程プログラム

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「超える経験」を通じて専門の研究も変わった

プログラムを通じて履修生は、「国境」という境域も軽々と超えてきた。冨田さんは、産官学民と連携して社会課題の解決に取り組む中長期的なプロジェクト型授業「超域イノベーション総合」で東アフリカのウガンダ共和国を訪れ、ある企業のビジネス戦略策定に取り組んだ。見知らぬ国でのプロジェクトは失敗の連続だったと振り返った冨田さんだが、それらの苦い経験を経て「まずビジョンを描き、その『ゴール』にたどり着くためにマイルストーンを設定する。そうした思考と行動様式が体に叩き込まれました」と話す。

井上 裕毅
(工学研究科)

また井上裕毅さん(工学研究科)は、ブータンやラオスなどの発展途上国でフィールドスタディを実施したことで、新たな研究テーマを見定めた。「それまで世界に競って高精度なセンサーを研究してきましたが、発展途上国の実情を目の当たりにして、『この国で自分の研究はどう役に立てるか』と考えさせられました」と井上さん。経済力や技術力によっては、先進技術が「無用の長物」になりかねない。そう実感した井上さんは、専門を深く掘り下げるそれまでの研究から、視野を広げてさまざまな選択肢を総動員し、適正な技術を見出すことに関心を移していく。結局これが博士論文のテーマになった。

武居 弘泰
(工学研究科)

一方で武居弘泰さん(工学研究科)は、ドイツの研究機関で約2カ月間、研究プロジェクトに参加するという稀有な機会を得て、「世界の先端を走る研究レベルを間近に見たことが、自分の研究に対する自信になりました」と語る。何より武居さんにとっての収穫は、国内外を問わず、数多くの人との出会いだという。「世界中どこにでも行ける。会いたいと願って会えない人はいない。この確信が、これからも臆せず行動する原動力になると思います」。

四人の進路は実に多様だ。より広い視野で社会を見るようになったことで、将来の目標も変わったという井上さんは、「世界の人々のライフスタイルを変革するような仕事をしたいと考えるようになりました」と語る。

「博士号取得のために深めた専門性と、このプログラムで得た多様な力。その両方を持つ自分にしかできないことを成し遂げたい」と展望を語った冨田さんの言葉に「超域イノベーション博士課程プログラム」の目指す「博士人材」の姿が重なる。これからの10年後、20年後の彼らの活躍を通じて、本当の意味で「超域イノベーション博士課程プログラム」の真価が評価されることになる。

column

大阪大学 理事・副学長(教育担当) 超域イノベーション
博士課程プログラム
プログラム責任者
小林 傳司

大学院では、専門性を深くするためにある程度視野を狭くしなければいけません。しかしそれによって、英語で「サイロ・エフェクト」、日本語で言うたこつぼ化が生じがちです。この克服には自らの専門性を反省的に眺めるもう一つの視点が重要になってきます。これは、自分ひとりでは身に付けることができず、異なる立場の他者に出会うことによって身に付くものです。超域イノベーション博士課程プログラムでは、通常の大学院生活では出会えないような他者と出会い、経験できないことを経験できる環境を作ることで、異なるサイロを行き来して、ほかのサイロの状況を伝える文化の翻訳家のような人も生み出せればいいなと考えました。このような人材は大量にはいりませんが、一定数、は要るのです。一割くらいいれば十分だと思います。

このような思いでこのプログラムを修了する履修生たちの話を聴くと、この視点を身に付けてくれているようでとても嬉しく思いました。今後出合うであろうキャリアのターニングポイントで、迷ったとき、躊躇して後悔するよりは、そこに踏み込んで失敗することをあえて選んでほしいです。もし踏み込むことで失敗しても、超域で学んだことによって失敗を糧にするだけの力量は身に付いていると信じます。

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超域イノベーション博士課程プログラム
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