さらば日本流 ANAホテルが大変身中

さらば日本流 ANAホテルが大変身中

東京・赤坂の「東京全日空ホテル」が、「ANAインターコンチネンタルホテル東京」と看板を替えたのは、2007年4月。それから約1年。変わったのは名前だけではない。内部ではなお、販売、マーケティング、人材育成など、ホテル運営に関するすべての面で、大規模な変革が行われている。

インターコンチネンタルホテルズグループ(IHG)は、客室数で世界最大のホテルチェーン。そのホテル数は30カ国以上、約3900に及ぶ。IHGに参画したことで得られた最大のメリットは、その充実した情報インフラを共有できることかもしれない。IHG・ANA・ホテルズグループジャパンの大屋了三COOは、「日本のホテルマンとして忸怩(じくじ)たる思いはあるが、チェーンとしてのボリュームはやはり強い」と苦笑いする。

まず、販売・マーケティングの面においては、精緻な数字データをフル活用できるようになった点が、全日空ホテル時代と大きく異なるという。「レベニューマネジメント(収入管理)の精度は明らかに向上しつつある」(セールス&マーケティング統括部長の鈴木謙次郎氏)。

たとえばある時点で掲示する宿泊料金は、予約の入り具合、競合ホテルの料金、前年同日の実績、目標額に対する他部門の進捗など、あらゆるデータを一覧して決定する。これまでも客室料金の調整は行ってはいたが、参照するデータの量が違いすぎるという。一方で、データや資料を作るのに費やしていた非生産的な時間は、極端に減った。

顧客満足の向上にもデータが活用される。顧客から回収したアンケートは、すべてシンガポールにあるアジア・パシフィック地域の品質管理統括部門に送られる。ここで、内容はすべてスコア化され、4カ月に1回のペースで、結果とそれに対する改善策がフィードバックされるという。そのスコアは人事考課にも反映されるというから、ホテルとしても軽視はできない。

たとえば、1年前のフィードバックで、ANAインターコンチネンタルホテル東京は、「チェックイン」に関するスコアが極端に低かった。チェックインの時間が長くかかりすぎることで、顧客が不満を抱いていたという。そこで、これまで別々だったチェックイン、チェックアウトのデスクを一つにまとめ、役割にとらわれず社員が臨機応変に対応する方式に変更し、前回のフィードバックでは、スコアを10ポイント向上させた。

実は、こうした改善策もIHGのデータベースの中に眠っている。各ホテルの品質に関するスコアとそれに対して講じた改善策、その結果なども、すべてグループのデータベースに蓄積されているのだ。つまり、品質向上においても、グループ3900ホテルの事例を参照できることになる。

新入社員から役員まで体系的な教育システム

COOの大屋氏は今月、IHGがグローバルで実施するトレーニングに参加するため、オーストラリアに赴いた。各ホテルの総支配人クラスが一堂に会し、人を動かすにはどうしたらよいか、意思決定のやり方といった「リーダーシップトレーニング」を受けるためだ。日本のホテル業界は、経験則に基づいて仕事をすることが多い。全日空ホテル時代にも、一定のプログラムにのっとった人材教育は行っていなかった。そして、上に立つ者が研修を受けるなど、考えられなかったという。

ところが、IHGでは、新入社員からエグゼクティブ社員に至るまで、必ずトレーニングを受けさせられる。昨年、別のトレーニングに赴いた鈴木氏は「IHGではエグゼクティブでも、現場で使うツールの詳細まですべて理解しており、現場の言葉で普通に話ができて驚いた」と漏らす。「Aim Higher(より高みを目指す)」など、トレーニングでは、グループ共通の価値観も徹底的にたたき込まれる。

こうした結果、07年度同ホテルの平均客室単価は前期比6%上昇した。だが、IHGのシステムのうち、移植が完了しているのはまだ半分に満たない。実際にIHG流が浸透し、現場で活用されるにはしばらく時間がかかりそうだ。ANAホテルの変身は、これからが本番を迎える。

(週刊東洋経済)

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