ファンドvs.創業一族 ユーシンの内紛劇

ファンドvs.創業一族 ユーシンの内紛劇

立て続けに発表されたトップの辞任でユーシンは社長不在の緊急事態に。背景には「ファンド資本主義」に対する創業一族の反発がある。(『週刊東洋経済』10月20日号より)

 「ファンド傘下」の自動車部品会社が混乱のさなかにある。

 RHJインターナショナル(RHJI、旧リップルウッド)系で、キーセットなどを主力とするユーシンは9月27日、社長の竹辺圭祐氏が辞任すると突然発表した。それから1週間後、副社長の竹網健祐氏も辞任。代表権を持つ社長と副社長が相次いで辞める異例の事態だ。

 竹辺氏は、昨年4月に筆頭株主となったRHJIが送り込んだ人物である。日産自動車時代にカルロス・ゴーンCEOの下で経営改革手法を習得した竹辺氏は2002年、RHJI系のナイルス社長に就任。業績が悪化していた同社を黒字転換し、債務超過も解消。見事に「V字改革」を成し遂げた。ユーシンに移ってからも手腕を発揮しているかに見えた。増益計画の07年11月期は、スズキ向け商品の好調などにより中間期時点で当初見通しを上方修正している。

 実績に問題があったわけではない。竹辺氏辞任の背景には、泥沼化した内紛劇があった。

「豪腕」に拒否反応 9月に緊急「解任」動議

 「『辞任』ではない。取締役会による社長の『解任』です」--。

 昨年6月まで30年近く社長を務めたユーシン創業一族の田邊耕二最高顧問は、そう言い切った。ユーシンは9月27日付のリリースで、竹辺氏が「一身上の都合により代表取締役社長を辞任した」としているが、事実は違うという。

 ユーシンは設立以来70年近くにわたり、創業一族による経営を貫いてきた。社員も創業一族の決定に追従するという経営スタイルが定着していた。ただ、70歳を超え体調に不安を抱えていた田邊最高顧問(当時社長)は、外部からの社長招聘を考える。「竹辺君なら日産で海外での実績もあり、英語も堪能。ユーシンのグローバル経営も切り盛りできる」。田邊最高顧問が太鼓判を押す中で、06年6月に新経営体制がスタートした。
 しかし、両者の間にはすぐに亀裂が生じた。竹辺氏は社長就任直後から、経営体制の若返りを画策するなどゴーン直伝の組織改革プランを矢継ぎ早に打ち出す。こうした「豪腕」に社内から拒否反応が出たのは想像に難くない。「持ち合いの有価証券を全部売ろうと思っている」と、かつて本誌のインタビューで「系列解体」への意欲を見せた竹辺氏に対し、あるプロパー役員は「我々は反対している」と不満を隠さなかった。

 社長退任直後しばらく病床にふせっていた田邊最高顧問は、体調が年明けにかけて回復。会社に出社するようになり再び社内での影響力を発揮し始めていた。

 新経営陣と創業一族との対立を決定的にしたのが、ナイルスの買収計画である。竹辺氏が強く推進したこの案件は、「買収金額150億円で進められていた」(ユーシン幹部)。これに対し、創業一族は猛反発。「よくてタダだ。『そんな高値で買ったら特別背任罪になる』と竹辺に伝えた」と、田邊最高顧問は語る。 

 創業一族の反発も理解できなくはない。ナイルスは竹辺氏の退任以降、最終赤字を続けており、純資産も29億円にまで低下している。また、両社は海外拠点が重複しているなど、「具体的な相乗効果も見込めない」(平山勝久社長代行)。そもそもユーシンのナイルス買収は、両社の筆頭株主であるRHJIが敷いた路線だとされている。ナイルス株をユーシンに高値で引き取らせることで“果実”を得る狙いだろう。

 今年5月に外部専門家が行ったナイルスの資産査定結果は想定以上に悪く、竹辺氏の買収意欲も徐々に低下したようだ。が、創業一族と竹辺氏との関係は、もはや修復不可能。そのため、来年2月の株主総会後に社長を交代するということで、RHJIとの間で穏便に話をまとめる動きも社内にはあった。

 ところが9月、創業一族の怒りは頂点に達した。竹辺氏が買収を「中断する」としたことに、将来再びこの案件を復活させる“におい”を感じたためだ。結局、同25日に開かれた取締役会で、創業一族側の役員が社長「解任」の緊急動議を提出。取締役6人のうちプロパーの3人が賛成、RHJI側の1人とプロパーながら竹辺氏の側近として動いていた竹網氏が棄権し、賛成多数で可決された。そして、この内紛の中で、竹網氏も辞任を余儀なくされた。

 今回の内紛劇は日本の伝統的な一族経営とファンド資本主義との温度差がいかに大きいかを物語ってもいる。「私はいつ分かれてもいいと思っている」と、田邊最高顧問はRHJIの資本撤退を促すような発言もする。だが、同氏は取締役ではなく、また保有株30万株弱と出資比率1%にも満たない。経営者でもオーナーでもない人物が、実質的に経営の実権を掌握している状態は、株主軽視やコーポレートガバナンス欠如の経営ではないのか。創業一族の姿勢に疑問が残ることは確かだ。

 RHJIにとっては買値から株価が約60%も下がっている現状で、そのまま手放せば大きな損失だ。実権を創業一族に握られている状況で、RHJIがどのような手を打つのかが次なる焦点となるだろう。

(書き手:西澤佑介、梅咲恵司 撮影:風間仁一郎)

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