北朝鮮への経済制裁が効かない本当の理由 制裁が目的化し、金正恩のダメージは少ない

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北朝鮮はすべての対外関係を公共機関が行う。軍事向けの取引でも、自ら民生用の取引へと操作できる。2270号が発効してから、中国政府は初めて独自的な制裁案を発表した。北朝鮮産の石炭を輸入する場合、中国の輸入業者が民生用取引であることを証明するようにしている。中国企業からすれば不便なことだが、北朝鮮側が協力さえすれば、民生用取引として証明することはそれほど難しくはないだろう。

そのほかにも、特定人物や機関に対する活動制約に関する制裁などがあるが、これらは象徴的な制裁にすぎない。国連制裁で北朝鮮には多くの不便さが生じてはいるものの、決定的に不自由にさせる制裁は米国による包括的な制裁のみであり、決して国連の選択的制裁ではない。選択的制裁を行う場合、強制力は落ちる。時間が過ぎれば過ぎるほど、そのような制裁に対する対抗策が用意されてしまうのが常だ。

第二の限界は中国が経済制裁に参加するかどうかという問題だ。北朝鮮は対外貿易の約90%以上を中国に依存している。中国が北朝鮮との取引を全面中断すると、北朝鮮は相当な圧力を受けることになる。反面、中国政府が黙認すれば、国連レベルの対北制裁にはそれほど意味がない。国連安保理で決議案を採択し、加盟国は国連決議案に基づいて対北制裁を行う。ところが、中国を除けば北朝鮮と取引のある国はそれほどなく、制裁を行うことも簡単ではない。専門家らが異口同音に「中国の制裁参加がカギだ」という理由がまさにここにある。

中国はなぜ対北制裁に消極的なのか

平壌の靴下工場。軽工業での生産量を上げるため、金正恩氏も訪問したモデル工場だ

しかし、中国の立場からは、北朝鮮に対し経済的圧力を加えることを好ましいとは思っていない。経済制裁で北朝鮮が厳しい状態に陥ると、悪影響は中国にそのまま反映されるからだ。経済的に北朝鮮住民の生活が厳しくなれば、国境を越えて来る北朝鮮住民の数は増える。こうなるといずれ中朝関係をも難しくさせてしまう。

一方では「緩衝地帯論」という概念がある。もし北朝鮮が崩壊、米軍が鴨緑江と豆満江を隔てて中国と対峙し駐屯することになれば、中国の軍事費負担は幾何学級的に増える。中国から見ると、北朝鮮はトラブルを招く存在ではあるものの、それでも緩衝地帯として残されることをひそかに望んでいる。中国が見えない対北支援を継続する最大の理由は、中国の核心的利益に合う北朝鮮の緩衝地帯論が存在するためである。

第三の限界は北朝鮮経済が自力更生型の経済構造になっていることだ。豊富な地下資源を基に、北朝鮮は外部の助けを受けなくても生きられる経済構造をつくった。1990年代を前後して、北朝鮮にはその自力更生構造に問題が発生。最も脆弱なエネルギー部門、すなわち自主的に解決できない部門から問題が生じた。電気が不足して、すべての経済活動が中断するようになった。

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