北朝鮮亡命外交官が語った「金王朝の弱点」 「民衆蜂起が発生する可能性もある」

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――金正恩と実際に会ったことはあるか。

ない。金正恩がどこで働いているか、家はどこにあるのか、どのように職場に通っているかを知る人間はほとんどいない。私は北朝鮮で数十年間生きたが、金正日や金正恩が車に乗り、平壌を移動しているところを一度も見たことがない。

――金正恩政権の脆弱な点について、思いつくままに3つ述べてほしい。

まず正統性だ。金正恩は自らを「白頭血統」とし、金日成、金正日から北朝鮮を統治する正統性があると触れ回っているが、その正統性と大義名分がはっきりしない。次に、北朝鮮社会を支配する統制システムが日に日に弱まっている。三つ目に、政策の不在だ。変化する北朝鮮内部の実情に合わせる政策を、金正恩が出せずにいる。

統制システムが揺らぎ始めた

――統制システムが弱まったことがわかる、具体的なケースを挙げてほしい。

北朝鮮の統制システムにおいて最も重要なことは、全国民の政治組織生活だ。北朝鮮は子どもから老人まで、すべて政治組織に組み入れられている。毎日テレビと新聞を通じて住民に洗脳教育を行われる。また、土曜日には講堂などに集まり、いわば宗教的な礼拝堂に行くかのように講演を開き、洗脳教育を行う。

ところが、この組織運営が徐々にマヒしている。いまの北朝鮮国民の中で、当局が話す政治思想に耳を傾ける人はいない。みんな座ったまま居眠りをしている。

――だからこそ、韓流文化が北朝鮮国内に入ってくるのも防ぐことはできない、ということか。

北朝鮮という国は、外部情報の流入が遮断されているという条件においてのみ、存続可能だ。一般の北朝鮮国民には、自分の国と比較できるものがない。他国のものがどのように入っていくか、テレビを見て本を読んでこそ「比較概念」が生じるが、北朝鮮はこれをすべて閉じてしまった。

ところが、情報流入を遮断するシステムが、いまマヒしている。脱北者を対象に韓国の統一省が世論調査を行えば、韓国映画やドラマを見なかったと回答する者はほとんどいないだろう。

北朝鮮では、韓流との戦争を発表し、韓国ドラマや映画を流布すれば捕まって銃殺刑、あるいは監獄に入れられる。それでも、人は韓流映画とドラマを見る。人間の属性の一つは好奇心ではないか。北朝鮮当局は韓国映画やドラマがみることができないように権力を使うが、権力の統制が徐々にカネ儲けの手段へと転換している。たとえば、捕まる代わりに、権力に数ドルを渡して解放されることがあるといったものだ。

――統制システムのマヒで、民衆蜂起も起こるとみるか。

北朝鮮住民は自分の経済的利害関係にかかわるものであれば、当局の措置に反発し抵抗するようになった。たとえば、商売は当局の許可を受けた者だけがチャンマダン(闇市場)でできる。ところが、今の北朝鮮では「バッタ」と「ダニ」が広がり始めた。

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