米国は建国以来ずっと「米国第一」主義だった トランプの気まぐれより重要な「米国の本質」

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米国がトランプ政権によって急に自国中心的になったなどと考えるのは甘い。米国という国は、建国以来、つねに「米国第一」なのだ。

製造業と労働者階級の米国第一/金融中心の米国第一

問題は、トランプにとって「米国第一」は何を意味するのかである。

トランプは、選挙期間中から、「中国が雇用を奪っている」「中国を為替操作国に指定する」「中国からの輸入品に高関税を課す」といった発言を繰り返し、中国に対する強硬な姿勢を隠そうとしなかった。また、不法移民の国外退去を表明したり、工場を国外へ移転しようとする企業には国境税をかけると警告したりもした。公共投資による大規模なインフラ整備も表明した。いずれも、米国の製造業を復活させ、国内労働者の賃金所得を向上させる効果が期待できる。

以上から判断するならば、トランプの「米国第一」とは、製造業と労働者階級にとっての「米国第一」だということになる。これを「米国第一A」と呼んでおこう。

トランプの「米国第一A」は、閣僚候補の顔ぶれにも反映されている。たとえば、商務長官に指名された投資家のウィルバー・ロスは、英『エコノミスト』誌に「ミスター保護主義」と呼ばれたこともある人物だ。また、新設の国家通商会議議長には、対中強硬派の経済学者ピーター・ナヴァロが指名された。米通商代表部(USTR)代表には、レーガン政権のUSTR次席代表として鉄鋼などの貿易交渉に関与した弁護士のロバート・ライトハイザーの名が挙がっている。

この「米国第一A」を通貨政策に当てはめるならば、ドル安政策となる。この「米国第一A」政策が実現すると、米国経済にインフレがもたらされることとなろう。インフレは実質的な債務負担を軽減するので、労働者階級には得になる。

しかし、もし「米国第一」を製造業と労働者階級ではなく、金融部門と富裕層の利益によって定義した場合はどうなるであろうか。

たとえば、米国がそのグローバルな金融力を維持・強化するのであれば、必要になるのはドル安ではなくドル高であろう。また、インフレは資産価値を実質的に下落させる方向に働くことから、金融部門や富裕層にとってはディスインフレのほうが望ましい。自由貿易や移民の流入も、インフレを抑止する圧力となるので推進すべきだ。中国との摩擦は、中国での投資ビジネスに悪影響を及ぼすので迷惑である。

このように、金融部門からみた「米国第一」は、製造業と労働者のための「米国第一A」にことごとく反するのである。この金融中心の「米国第一」を「米国第一B」と呼んでおこう。

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