パナが「テクニクス」育成に力を入れる理由 唯一の女性役員が語る苦闘と本音

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このことは昨年、2016年9月のIFAで記者会見で発表され、今後、どのように協業するかを検討するとのアナウンスだけがあったが、今年1月、米ラスベガスのCESではより具体的な形で両者のアライアンスが発表された。

デジタルコンサートを最新の4K/HDR(ハイダイナミックレンジ)へと対応させるために、パナソニック製機材で配信システムを構築するだけでなく、4K/HDR/ハイレゾ化されたデジタルコンサートに、パナソニック/テクニクスブランドの再生機がいち早く対応するというが、提携範囲はこれだけではない。

加えてテクニクス部門に携わるオーディオ技術のエンジニアをベルリンに2カ月間派遣。演奏を録音・ミキシング・マスタリングする過程に加わり、生の楽器音、各種音楽ホールの音響などを体験しながら、それらをブレンドし、指揮者や演奏者が意識する“音楽”を創り出しているかをトレーニングする。

「私たちの世代は、DVD-Audioの開発で録音の現場に立ち会ったり、さまざまな演奏者と時間と空間を共にするチャンスがありました。私自身、ミュージシャンでもあり、オーディオ機器が何を再現すべきなのか、自然に学べた面もあります。しかし今のパナソニックのエンジニアには、そうした機会がありませんでした。エンターテインメント家電に取り組む際、映像だけにこだわればよいのではなく、音と映像が組み合わさってこそ感動が得られる。われわれがオーディオに再投資し始めた理由はそこにありました」(小川氏)

ベルリンフィルとカーオーディオも開発

さらにテクニクスのブランドを掲げる製品・技術に関して、ベルリンフィルからのフィードバックを受けながらの開発も行う。現実の楽器や音楽ホールの特性を知る立場から、音質に対するフィードバックをもらい、音作りに生かしていく。

この“音作り”に関しては、パナソニックが重視する車載向けシステムでも取り組む。自動車のキャビンはオフセンターに異なるパッセンジャーが、ガラスに囲まれた空間で音を聴くことになるため、いわゆるハイファイ(高忠実再生)での再生が難しい。テクニクスの名を冠した自動車メーカー向けオーディオシステムの開発をベルリンフィルと行うことは音作りはもちろん、(特に欧州自動車メーカーとの協業という視点では)ブランド面での利点がある。

さて、2年余りでベルリンフィルとの協業を行うまでに復活したテクニクスだが、今年はブランドの価値をより幅広い層へと浸透させることが目標となる。

小川氏は「(テクニクス事業の採算性などの質問が多いが)もちろん事業として成立するには採算は取れなければなりません。しかしパナソニック全体からすれば、テクニクスはブランド事業です。映像製品もオーディオ製品も、それぞれにこだわった価値を提供するには大きなコストがかかります。趣味・道楽の世界で“これは本当にいいものだ”と思ってもらえる世界観を作ることができなければ、あっという間に価格競争となって継続的に事業を続けることはできません。まずはしっかりと高級オーディオブランドとしての価値を知ってもらわなければならないのです」と話す。

念頭にあるのは、テクニクスの象徴とも言えるアナログターンテーブル「SL-1200」シリーズだ。

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