トランプ相場に一喜一憂しない「金投資法」 高値圏で乱高下する株式よりも意外に安全?

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しかし、コモディティでの運用には問題もある。配当がないことや運用上の目に見えないコストが存在する。先物市場での運用の場合、ポジションを保有する限月の乗り換えによるいわゆる「ロールオーバーコスト」が発生し、これがパフォーマンスを悪化させるため、この分だけ運用パフォーマンスが劣化する可能性があるのだ。

金利が低い時にはそのコストは軽減されるが、運用期間が長くなれば、一定の影響はある。また、先物価格には現物の保管料や保険料といった現物市場特有のコストも含まれるため、これらのコストが運用パフォーマンスに影響する。しかし、現物需給がひっ迫すれば、むしろロールオーバーの際にリターンを獲得できることもある。コモディティの現物市場の場合、現物がひっ迫し、価格が上昇している際には、現物価格が先物価格を上回る、いわゆるバックワーデーション(逆ザヤ)の状態にあることがある。

このようなときに、先物のポジションの乗り換えをすれば、むしろリターンを獲得できることになる。銅や原油など、需給がひっ迫しやすい銘柄では、このような状態は頻繁にみられており、長期的にはむしろリターンの源泉の一つになっている。筆者はこれらの総合的に考えても、コモディティでの運用には大きなメリットがあると考えている。将来的に需給が改善し、価格が上昇する姿が見えていることが、筆者がコモディティを投資対象の中心に据えるとの判断につながっているのである。

低位圏にある金に少しずつ投資する

ただ、そうはいっても一般的な投資家にとっては、コモディティの中で最もなじみがあるのは金であろう。金はコモディティに分類されており、先物市場にも上場されているが、実際には通貨の代替としての側面がある。もちろん、いまは金本位制ではないため、金を通貨ととらえるのは無理があるとの意見もあろうが、筆者はいまだに各国政府や中銀は金を通貨の代替として扱っていると考えている。

では、一般的な投資家が金を投資対象としてポートフォリオに組み入れる場合、どの程度の比率がよいだろうか。過去15年のデータから計算すると、おおむね10%程度が適正との答えが得られる。これは、米国株、日本株、米国債、日本国債、金という5つの投資対象に分散するポートフォリオの場合の金の投資比率である。

筆者は感覚的には15%程度でもよいと考えているが、金はあくまで資産保全のために利用すると考えれば、10%程度が妥当ともいえる。10%を金で保有すれば、ポートフォリオのボラティリティ(変動率)が安定し、リターンの安定にもつながることになる。

各国の中央銀行の金融政策は依然不透明であり、今後金の重要性は再度高まると筆者は考える。金だけでなく、原油や銅などの産業用コモディティを「スパイス」として加えると、さらに追加収益を狙うこともできる可能性もある。この点については、また機会を見て解説することにしたい。金はトランプラリーの中で売り込まれた銘柄だが、これからさらに下落する場面があれば、格好の買い場になると考えている。特にもし1オンス1100ドルを割れるようなことがあれば、生産コスト面から見ても、見逃さないことが肝要だ。この水準は長期的にもきわめて魅力的である。

金については、あくまで長期的かつリスク分散の観点で見ていただきたい。無理をせず、少しずつ安いところを拾うことで、金が持つ重要な役割が将来において発揮されるだろう。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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