日本の鉄道が北欧「赤字鉄道」から学べること スウェーデンに学ぶ観光鉄道の成功例

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では、インランスバーナンがなぜ人気があるのか。ひるがえって、遠来の観光客に満足してもらえるための要素は何か、考えてみたい。

沿線には絶景が続くが、意外に単調(筆者撮影)

この鉄道の沿線は、手つかずの自然に恵まれ、トレッキング、カヌー、釣りなど「ネイチャースポーツ」が盛んなエリアである。乗客の多くは、長期滞在し休暇を楽しむことも目的としている。鉄道側でも、乗り放題乗車券を発売するなど、体制を整えている。つまりは、沿線の観光資源との連携が不可欠ということだ。

「乗って楽しい列車」が孤軍奮闘しているだけでは、限界も感じる。昨今流行のJR各社の「リゾートトレイン」のように、大きな投資をして豪華列車を仕立て上げ、高い料金を取る。あるいはマメにリニューアルを施す、イベントを仕掛けるといった、飽きさせない工夫が必要になってくる。

その点、沿線を含めた面的な広がりがある観光エリアだと、心強い。列車を降りた後の楽しみが充実していれば、さらに魅力が増す。リピーターの確保という意味でも有利だろう。

車窓風景そのものでもいい。沿線の観光資源に自信があれば、列車自体は特別、豪華でなくてもよいと考える。既存車の小改造で十分だ。豪華列車を否定する訳ではないが、列車そのものは清潔でシンプルなものにして"黒子"に徹し、沿線への関心を広げてもらう方に力点を置く戦略でもよいのではないだろうか。

それならば、大きな設備投資はいらない。大井川鐵道の井川線、黒部峡谷鉄道など、豪華ではないが、人気がある観光列車の先例はある。

「予約簡単・座れる列車」は必須条件

多くの鉄道が苦境に陥っている北海道でも、スキーリゾートとして世界中からのスキー客を集めるニセコへ向かう列車など、十分、検討の余地があると思う。新千歳空港~ニセコ間には、かつてJR北海道が「ニセコエクスプレス」を運行していた。この列車は快適で清潔感があるが、豪華というイメージではない。

ただし、豪華ではなくても、確実に座れること。そして、十分な居住性を備えていることは、不可欠だ。

日本の風光明媚なローカル線で時折、遭遇するのが、団体ツアー客が普通列車に大勢乗り込んできて、座ることもできず数駅間を立って過ごすというシーン。「各駅停車の旅」などと銘打って集客しているのだろうが、座れなければ旅の楽しみは大きく減殺される。

それゆえ、全席指定席であること、そして、簡便なシステムで世界中どこからでも予約できることが必須条件。クレジットカード決済は絶対だ。JRのマルスのような大規模なシステムは不要。電話予約のような、人手がかかり、かつ日本語以外への対応がローカル鉄道では難しい方式も、できれば避けたい。

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