中高生には「部活」とは違う選択肢が必要だ ドイツ型「市民クラブ」は日本で成立するか

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日本の部活では、先輩との上下関係は学べても、年齢や立場を超えた幅広い交流は難しい。放課後、気軽に参加できるというメリットもあるが、それは「家か学校にしか居場所がない」という状況にもつながりかねない。

2013年の神奈川県の『中学校・高等学校生徒のスポーツ活動に関する調査報告書』では、「部員以外の地域の人々と一緒に運動部活動に参加すること」を、62.9%の中学生が肯定的にとらえている。「他の学校の生徒と合同の運動部を作り、練習や大会参加など一緒に活動すること」は、62.7%の生徒が肯定的だ。また、「1年間のある時期に休みの期間を設けること」に関しては84.9%が肯定的となっている。今求められているのは、横のつながりと適度な活動頻度だということがわかる。「開かれたコミュニティでゆるく活動したい」という生徒にとっては、部活よりもドイツ流のクラブ活動が合っている。

歴史的な違いも、確かにある

ドイツで市民クラブが盛んなのは、積極的な市民による自治の歴史や、それによる市民活動の社会的認知、さらには学校が昼に終わることが多いこと、充実した助成金などの理由が挙げられる。日本がすぐに同じような制度を整えるのは難しいが、「地域の社会的活動」のモデルとして、参考になるのではないだろうか。

たとえば、水曜日は体育館を使う部活を休みにして、地域に開放するのはどうだろう。「年齢を問わない趣味のバスケットクラブ」でもいいし、「経験を問わないバレーボールクラブ」でもいい。少しの参加費を徴収し、自治体が助成金を出せば、指導者に多少の謝礼も払えるだろう。スポーツ科学を学んでいる大学生や、スポーツトレーナーの卵などに声をかけることも可能だ。部活に参加している生徒や顧問は休めばいいし、部活とは違う場でスポーツをしたい生徒や社会人などは、そういった日に参加すればいい。クラブは、中高生にとってだけではなく、社会人にとっても、交流、生涯学習、生涯スポーツの場として重宝されるだろう。

最近は教師の長時間労働や中高生の部活疲れなどが取り上げられ、部活のあり方が問われている。だが、「部活をどうよくするか」だけでなく、「部活以外の場」に目を向けることも必要だ。そのとき、ドイツのような市民クラブがあれば、「もうひとつの選択肢」になるのではないだろうか。

雨宮 紫苑 フリーライター

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あまみや しおん / Shion Amamiya

1991年、神奈川県生まれ。立教大学在学中にドイツで1年間の交換留学を経験。大学卒業後再び渡独。ワーキングホリデーを経て現地の大学へ入学し、現在フリーライターとして活動中。日独比較や外から見た日本など、海外在住者の視点で多数の記事を寄稿している。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

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