堕ちない社会より、浮かび上がれる社会へ 一罰百戒は軽度依存者の助けも阻害する

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私がびっくりしているのは、逮捕の第一報を受けて、在京キー局とスポーツ新聞各紙が、例によって、一斉に高樹沙耶特別シフトの総力報道体制に突入していることだ。

うちの国のメディアは、いったいいつまでこの大麻びっくり報道を演じ続けるつもりでいるのだろうか。カマトトぶりにしても、あんまり白々しいではないか。

テレビは、それこそ朝から晩まで高樹沙耶関連のニュースを追いかけている。彼女の奇行をほじくり返し、男性遍歴を洗い直し、自然回帰生活についてのインタビュー映像をリピートしては、それらのネタのいちいちをあげつらってネチネチといびり倒している。

でもって、テレビ朝日は、逮捕の報が流れたその日のうちに、再放送予定だった高樹沙耶出演の人気ドラマ「相棒」の放送回を、彼女が出演していない回の放送に差し替える旨を発表している。

なんという過剰反応だろうか。

薬物への入り口を閉ざすだけでは不十分

ASKAが逮捕された時に、日本中のCDショップから、ASKA関連(「CHAGE and ASKA」名義の作品も含めて)のコンテンツがひとつ残らず引き揚げられたことも記憶に新しいところだが、エンタメ業界は、またしても同じ過剰反応を繰り返すつもりでいる。

仮に覚せい剤なり大麻なりを使用したミュージシャンなり女優なりが、特定のコンテンツに関与していたのだとして、その作品が、いったい誰を傷つけるというのだろうか。

あるいは、彼らは警察の反麻薬キャンペーンに協力しているつもりでいるのかもしれない。たしかに、放送局の人間にとって、警察経由のリーク情報は致死的に重要な意味を持っている。レコード・音楽業界の人間にとっても、警察の意向は決して無視できない天の声であるのだろう。

でもだからといって、われわれは、警察の監視下で暮らす囚人ではない。

海外では、薬物依存やアルコール依存から立ち直った著名人が、反麻薬キャンペーンに協力することで一定の成果を上げている。この活動は、子供たちや若い世代の人間に薬物依存の恐ろしさを伝えるだけでなく、一度は薬物の魔の手に落ちてしまった人々に対して依存から立ち直るチャンスを与える意味でも、大変に意義深い。

ところが、われわれの社会は、薬物依存に陥った人間をとにかく叩きまくる一罰百戒のソリューション以外に何も持っていない。

これでは、薬物依存者は、ますます社会から孤立する。そして、このことは軽度の依存者が助けを求める回路をも閉ざすことになる。

かつてアルコール依存であった者として、薬物への入り口を閉ざすだけでは不十分だということを、強く訴えておきたい。

堕ちない社会よりも、堕ちた人間がもう一度浮かび上がれる社会を作らないといけない。

誰だって、堕ちる時は堕ちる。

堕ちてみればわかる。

(Text: Takashi Odajima
Photo: Shingo Ito / AFLO, ⓒAsahishimbun)

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