日立・三菱電機が挑む「研究開発」改革の全貌 マーケットインと起業家精神でR&Dを変える

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もちろんそれを一人でこなす必要はない。研究所内、社内の専門家、さらには社外のNPOなどとも連携して製品を作り上げていく。それを体験するのがデザインXの狙いでもある。電源をどうするか、持ち歩いても壊れず、簡単に手入れができる形状は、購入してもらえるだけの収入はあるのか、などなど。松山氏は壁にぶち当たる度に課題を解決してきた。

現在、SWPは正式なプロジェクトに昇格。松山氏もデザイン研究所で長期的な視点で育てていくべき技術や事業に取り組む未来イノベーションセンターに異動し、今は冷蔵庫の製品化で走り回っている。

「女心」で掃除機を開発

三菱電機が2015年3月に発売したコードレス掃除機「iNSTICK(インスティック)」は、デザイン研究所・ホームシステムデザイン部の四津谷瞳さんのチームがデザインXで提案した「女心に響かせる」が元になっている。

コードレス掃除機「iNSTICK」(写真右)と開発者の四津谷さん(記者撮影)

四津谷さんのチームは、購買の決定権を持つ女性の微妙な心理、一言でいえば、自分の行動を正当化する気持ちに寄り添った製品作りを訴えた。これがデザインXに選ばれた後、ブラッシュアップしたコンセプトを事業部にプレゼンして回り、採用したのが掃除機の開発チームだった。

掃除機は使用しない時は片付けておくもの、それでは使いたいときに出すのが面倒で掃除が嫌いになる。ならば、室内に置くことを前提にすればよい――。インスティックはコードレス掃除機の充電スタンドに空気清浄機能とインテリアになるデザイン性を持たせた。結果、インスティックは5~7万円と安くない価格帯ながら、指名買いも出るヒット商品となった。

2013年以降、毎年4~5件がデザインXに選ばれている。半年ごとに一定の成果を出せなければ打ち切られる。認められれば翌年度以降も予算が付き継続される。「女心」以外はまだ製品化に至っていないが、SWPのほか事業化に向けて進み出した案件もある。

「デザインXで稼ぐ段階まではまだまだ。むしろ投資が増えていっている」と語るデザイン研究所の杉浦博明所長は、苦笑いしながらもどこか楽しそうだ。「若手のデザイナーは本業とは別にやりたいことがある。好きなことをやる場があれば、問題意識を持つ」と杉浦所長は語る。

「最終的に事業として結実するのが最大の狙いだが、デザインXに取り組む過程で、若手デザイナーが縦割りの組織や業務を越えて成長していけば、その経験こそがプラスになる」(杉浦所長)。

現在「女心」はプロジェクトが終了し、異動したメンバーもいる。「でも、ラインなどでつながっていて連絡を取り合っている」と四津谷さん。このつながりから次の何かが生まれるかもしれない。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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