欧州諸国の「ドイツ叩き」は不穏な未来を招く 建設的な対話をしないと危機は深まる一方だ

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ドイツの政策の誤りを批判するのは簡単だが、より建設的なのは状況を冷静に分析し、過去の教訓を将来の選択に生かすことだ。ドイツ政府がここ数年の英仏伊と同じ道をたどっていたならば、欧州は現在より、さらにひどい状況に追い込まれていたはずである。

確かに、メルケル首相がイタリアとギリシャでの危機に対して打った手は遅きに失した面があったかもしれない。しかし、彼女は難民問題とロシアからの圧力への対処という2つの重要事項に関しては、並外れた寛容さと先見の明を示した。

さらに、メルケル首相はトランプ氏当選への対処でも健全なリーダーシップを発揮した。彼女はトランプ氏を祝福する半面、「民主主義、自由、法の尊重、人間の尊厳といった価値観を共有」した場合に限り、トランプ氏との協力関係を強化する、と条件をつけた。英国のEU離脱交渉でも、英国政府に最も同情的な姿勢を示している。

「ドイツたたき」は逆効果なだけだ

メルケル首相の支持率の高さは依然、ほかの欧州指導者から見れば羨望の的だ。彼女は西側主要国でポピュリストではない最後の指導者となってしまうかもしれない。

ドイツが過去の間違いから学び、欧州のリーダーとして一歩踏み出すべきであることは言うまでもない。

しかし、それだけでは不十分だ。ほかのEU諸国は自国の失敗から注目をそらす手段としてドイツをたたくのをやめるべきだ。こうした攻撃は近年、行き過ぎて逆効果になってしまっている。欧州の深刻な危機を解決するには、ドイツとパートナー諸国との建設的な対話が不可欠だ。

週刊東洋経済1月14日号

マルセル・フラッシャー ドイツ経済研究所所長

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マルセル・フラッシャー / Marcel Fratzscher

ECB(欧州中央銀行)国際政策分析部門の元トップ。独フンボルト大学教授。専門はマクロ経済と金融

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