トランプ時代は「ニュースの読み方」が変わる 特ダネ競争が激化し、ニセ記事も蔓延

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たとえば、官僚が次期大統領に不満を抱いている、との記事が出たとしよう。その信頼できる出元は主要官庁だと推察できる。だが、ただのうわさ話とは違う次元で、情報源はどの程度の人々から話を聞いたのだろうか。 実は膨大な数の職員のうちの、たった10人かもしれない。そのような、ごく一部の意見を代弁している記事は、信頼するに足るのだろうか。

こうした思考法は、次期大統領が外国の指導者と電話で話した内容が記事になった場合などに、とても重要になる。そうした情報を知りうるのは、会話中に次期大統領の間近にいた、ごく限られた人物だけだが、そうした人物は情報を漏らすものだろうか。

失職や投獄のリスクを冒してまで情報をリークすることで、情報源にはどんな見返りがあるのだろうか。世論操作を目論んで、ニセの情報を漏らすことだってあり得るのだ。匿名情報に基づく記事の内容が真実であることは往々にしてある。しかし、読者側は、その真偽を嗅ぎ分ける努力をする必要がある。

もうひとつ方法は記事の価値自体を考えることだ。たとえば、「匿名の関係者によると、ある候補者が、車に反則切符を切った警官を殴った」との記事が出たとする。その候補者は果たして、反則切符を切られた程度で警官を殴って新聞沙汰になるリスクを本当に冒すような人物なのだろうか。

この手のニュースは、内容が従来の流れから外れて突尾であればあるほど、真偽を疑われるべきだ。「真実かもしれない」とか「真実ではないと証明できない」という要素が、ニセのニュースや誤報へと繋がるのは古来、世の常なのだから。

読者も受け身でニュースと接してはダメだ

たとえば、民主党系のニュースサイト「シンクプログレス」は、駐米クウェート大使が、ある式典の会場をフォーシーズンズからトランプ・インターナショナル・ホテルへと移したのは、トランプ陣営から政治的圧力を受けたからだと報じた。大使自身はこの見方を否定している。

記事が出た背景を考えてみよう。次期大統領の娘のイヴァンカ・トランプないしは大使館関係者がこうした内幕を知り、大使と直接話した上で漏らしたのか。あるいは書いた記者か、記事の匿名の情報源が、トランプを批判する人々が受け入れやすいニュースを出そうと考えたのだろうか。

結局のところ、諜報担当者にも100%の真実はわからない。このため彼らは、個別の情報をその信頼度に応じて「高中低」といった具合にランク分けして判断し、その上でどう動くかを決める。

読者は、匿名記事の真偽を判定することはできない。だが、世の中では何だって起こり得るが、実際に起こるのはその一部に過ぎない。

トランプ時代には、米国現代史上で最も鋭い社会の分断がメディアを突き動かし、報道機関すべてが、熾烈な特ダネ競争を強いられるだろう。2017年はメディアに対して受け身ではいられなくなるのだ。ニュースを読む側も、リテラシーが必要になる。

(文中敬称略)

筆者のピーター・ヴァン・ビューレン氏は米国務省に24年間の勤務歴がある。著書にイラク再建の失策を取り上げた「We Meant Well: How I Helped Lose the Battle for the Hearts and Minds of the Iraqi People(原題)」など。このコラムは同氏の個人的見解に基づいている。
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