ノーベル文学賞「ボブ・ディラン」に捧げる

ロバート・ハリス「どうってことなかったぜ」

初めて聞いたディランの唄は…

ノーベル文学賞の受賞決定後、沈黙を続けたボブ・ディラン。その影響を強く受けてきたというロバート・ハリスが、ディランに捧げる一文。

鼻から抜けるガラガラ声が…

当記事は「GQ JAPAN」(コンデナスト・ジャパン)の提供記事です

ボブ・ディランを初めて聴いたのは1964年の春だった。ぼくは横浜のセント・ジョセフ・カレッジという、カトリック系のインターナショナル・スクールの生徒で、放課後、仲間とシェルブルーという元町にあるレストランでハンバーガーを食べながら土曜日のダンスパーティの話で盛り上がっていた。店ではFEN(アメリカの駐留軍のラジオ局FAR EAST NETWORK)の音楽番組がかかっていて、ポップソングが次々とスピーカーから流れていた。その時、ディランのナンバーが耳に飛び込んできた。「風に吹かれて」だった。それまでのポップシンガーの甘い歌声とは一線を画した、鼻から抜けるガラガラ声がぼくたちの会話を止めた。

「何こいつ。変な声」友人の遠藤が言った。

「歌も下手くそ!」友人の鈴木が言った。

たしかに変な声で、歌もそれほどうまいとは思えなかった。でも、ぼくにはそのとき、歌詞がものすごい勢いで胸に突き刺さってきた。

考えてみてほしい。ぼくたちがそれまで毎日、耳にしてきたのは「愛して、愛して、行かないで」とか「抱いて、抱いて、抱きしめて」とか「ぼくは君の手が握りたいんだ」といった、単純極まりない歌詞のポップソングばかりだった。そこへ急に、「どれだけの道を歩かなければならないのか/男と呼ばれるまでに/どれほどの海を渡らなければならないのか/鳩が砂に身を横たえられるまでに/どれほどの砲弾が飛ばなければならないのか/爆弾が永遠に禁止されるまでに/答えはね、友よ、風に舞っているんだ/答えは風に舞っている」という詩的な歌詞がスピーカーから飛び出してきたのだ。ぼくは少なからず、この歌詞にちょっとしたショックを受けた。

でも、だからといってそれからすぐ、ボブ・ディランにハマったわけではない。時は60年代のはじめ。当時はブリティッシュ・ロックの風が吹き荒れ、ぼくたちはザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズはもちろん、ジ・アニマルズやザ・キンクス、ザ・ヤードバーズ、マンフレッド・マン、デイブ・クラーク・ファイブ、ジェリー・アンド・ザ・ペースメーカーズたちに夢中になり、アメリカの歌手にはあまり目が行かなくなっていた。

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