2017年も1000億円規模の海外買収が続々? 2016年はソフトバンクが圧倒的存在感

拡大
縮小

国内市場の縮小を見据えた動きは、日本企業にも当てはまる。2006年には日本企業関連のM&Aのうち64%が国内同士の取引だったが、2016年は32%まで後退。その一方で、日本企業による海外企業の買収は30%から45%へと拡大している。その尖兵となっているのが、冒頭でも触れたソフトバンクだろう。

大手証券幹部は「足元は為替が円安に傾いているが、市場が縮小している以上、国内に大きな工場は建てられない。成長のための投資をどこにするかとなったとき、海外に拠点を確保するためのM&Aは続いていく」と指摘。そのうえで、「国内企業のM&Aに対する意欲は強く、1000億円規模のM&Aを検討しているところはたくさんある。2017年も2016年と同程度の市場規模になりそうだ」と見通す。

トランプ政権の保護主義が水を差す?

ただし、不安な要素がないわけではない。1つは米国のトランプ次期大統領の動向だ。同氏が保護主義的な言動を繰り返していることから、「NAFTA(北米自由貿易協定)がどうなるか。保険など米国内が主要な市場となっている業界であれば儲かるだろうが、製造業はメキシコとの関係が強いため、M&Aに迷う企業も出てくるのではないか」(大手証券)との声もある。

英国のEU離脱問題に加え、フランスやドイツで国政選挙が相次ぐ欧州についても、不透明感が漂う。ソフトバンクによるアームHDの買収やアサヒグループHDによる東欧ビール会社の買収もあり、2016年は日本企業の海外買収に占める欧州の比率が5割を超えていたが、2017年は欧州の比率が大きく低下することになりそうだ。

グローバル市場における中国企業の台頭も要注目だろう。国際間のM&Aにおける買い手国のランキングで、中国は2016年に首位に浮上した。「中国企業はトップダウンで決断するので、契約がまとまるまでの期間が日本企業よりも短い。経営にも口を出さない。欧米の投資銀行で働いた経験のある中国人がアドバイザーに就くようにもなり、買い手としての中国企業の存在感が高まっている」(GCAの大田氏)。

中国企業に買い負けるケースが増えれば、日本企業の成長戦略も修正を余儀なくされる。国内やグローバルでの業界再編の動きをにらみながら、今後の成長余地に見合った適正金額で企業を買収・売却していけるか。海外情勢が激動期を迎える中、2017年はその巧拙が試されそうだ。

猪澤 顕明 会社四季報オンライン 編集長

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いざわ たかあき / Takaaki Izawa

1979年生まれ。慶應義塾大学卒業後、テレビ局勤務を経て、2006年に東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、ニュース編集部などに在籍。2017年国内のFinTechベンチャーへ移り、経済系Webメディアの編集長として月間PVを就任1年で当初の7倍超に伸ばす。2020年に東洋経済へ復帰、「会社四季報オンライン」編集長に就任。

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