カラオケ「まねきねこ」は首位を奪取できるか 店舗数は最大手ビッグエコーに迫る勢い

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また近年の飲酒運転に対する罰則の強化で、従来型のカラオケ店が収益源としてきた酒や食事の提供による儲けは激減。一方でまねきねこは、利用客の「持ち込み」を可能にすることで厨房関係の費用を抑えることに奏功、身軽な経営の優位性が増していった。

その結果、地方郊外のロードサイドで次のようなことが起きた。「シダックス店舗の近くにまねきねこが出店すると、安いうえに、(飲食物持ち込みが可能など、デフレ)時代に合ったサービスを提供しているのでお客をごっそり持っていかれる。シダックスの店は途端に赤字になるが賃借契約に縛られて退店もできなかった」(カラオケ業界団体関係者)。

まねきねこが都心開拓を急ぐワケ

「持ち込み自由」の認知浸透が大きな強み(記者撮影)

これまで地方郊外を中心に勢力を拡大してきた、まねきねこだが今、なぜ東京都心部から郊外へと延びる鉄道沿線に出店攻勢をかけ始めているのか。その理由をコシダカHDの朝倉一博常務はこう説明する。

「地方では盆と正月が年間通していちばんの書き入れ時だった。家族や旧友同士が集まってカラオケに来てくれた。ところが数年前から盆がある8月がダメになり、もっとも売上が上がっていた正月のお客さんまで減ってきた。地方からどんどん人が首都圏に吸い寄せられている。特に当社の主要顧客の若い人たちは顕著だ」。

顧客を追って首都圏に進出してきたまねきねこには強みがある。地方出身の若者は同チェーンの低価格、持ち込み自由というシステムの割安感が刷り込まれているので、まねきねこを見つけるとすぐに訪れ、再びリピーター客になるという。

ただ、カラオケ事業の業績は2012年8月期の売上高185億円、営業利益26億円がピーク。この時は東日本大震災翌年で、「絆」を確かめ合える安価で集まりやすい娯楽場として、カラオケボックスは東北地方を中心に客でごった返したが沈静化していった。

近年は出店を増やし2016年8月期は売上高276億円と増加しているものの、都会での新規出店コストの負担が増え、セグメント営業利益は11億円と大きく減らしている。都心部ではすでにカラオケ店を居抜き物件として獲得するのは困難で、一からの店舗づくりをする場合が多いためコストがかさむのだ。

お家芸の居抜き出店ができなくても、朝倉常務は「今はパチンコ店と居酒屋が悪いから(こうした業態の撤退・閉店で空いた)物件はいくらでも選べる。今はこれはという物件であれば積極的に投じる」という。「業界首位のビッグエコー(売上高421億円、コシダカの約1.5倍)を売上高でも抜く。そっちが優先。カラオケチェーンの国内首位を狙う」(同)。

朝倉常務がそう豪語する背景には、もう一つの事業柱であるフィットネス事業の「絶好調」がある。飽和状態にあったフィットネス業界に中高年女性向けをターゲットにした「カーブス」での参入が奏功。あっという間にカラオケ事業の約4倍、営業利益の8割超を叩き出すコシダカHDの「稼ぎ頭」に急成長し、カラオケ事業への投資余力を担保している。

コシダカHDは2017年8月期に東京、埼玉、千葉、神奈川に重点的に50前後の出店を計画、5年以内をメドに南関東で300店舗(現120)を展開する計画だ。海外展開への布石も着々と進める。すでに韓国に13、シンガポールに11の直営店舗がある。周辺諸国、インドネシア、フィリピン、ベトナムの調査にも本格的に乗り出した。

同社は2021年8月期にカラオケ事業で売上高650億円(国内450億円、海外200億円)、コシダカHDの売上高1000億円という目標を掲げている。そのためには競合がひしめき合う都心部の開拓がカギを握る。

竹内 一晴 ジャーナリスト

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たけうち かずはる / Kazuharu Takeuchi

1970年名古屋市生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。大手芸能事務所、CS演劇専門放送局プロデューサー、写真週刊誌専属記者等を経て2004年からフリー。報道・表現の自由、大学自治、韓国社会事情、カラオケ、アイドル等の記事を執筆。田島泰彦編『個人情報保護法と人権―プライバシーと表現の自由をどう守るか』に論稿掲載。48グループの推しメンは松井珠理奈(SKE48)、注目株は山田菜々美(AKB48・Team8)だが、全メンバーを公平に見ることをモットーとする。

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