社会保障費「5000億円増に抑制」では甘すぎる 不足財源を賄うため、いずれは大幅増税に

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(1)医療機関への「フリーアクセス」の制限、かかりつけ医の強化

日本では一般的に、患者が自由に病院を選び診療を受けることができる。そのため軽症であっても高度な医療設備を持った大病院を受診して過剰な医療サービスを受けたり、受診回数が多くなったりするケースが指摘される。病院側も診療報酬を得られるため、医療行為を抑制するインセンティブが働きにくい。

欧州では原則としてまずはかかりつけ医の診断を受け、症状が重篤な場合はかかりつけ医の紹介状を持って大病院に行くという病院の機能分化が進んでいる。日本でもかかりつけ医の受診へと誘導するため、かかりつけ医以外の病院では定額負担を課す案が厚生労働省で審議されたが、かかりつけ医の定義や負担額をめぐり議論は難航している。

(2)終末期医療の制限

高齢者などで回復の見込みがないと判断された場合でも、家族の希望に応じて胃ろうや点滴などによる延命治療が行われるケースもある。諸外国では延命治療が制限されることも多いが、日本ではかつて患者の人工呼吸器を外した医師が警察の捜査を受けた事件もあり、延命治療の差し控えはタブー視される傾向にある。そもそも、どこからが「終末期」なのかといった定義も難しく、終末期にかかる医療費の試算や削減の検討はほとんどなされていない。

(3)要介護認定基準の厳格化

介護費用は介護保険制度の始まった2000年度(3.6兆円)から急激に増え、2016年度には10.4兆円に達している。うち、4割弱は生活支援を中心とする要介護1〜2とその前段階の要支援1〜2に相当する軽度者が中心であり、本当に介護サービスが必要か、どのような介護サービスが必要かといった内容を精査する必要がある。また、限度額の範囲内であれば原則1割(高所得者は2割)の自己負担額の引き上げについても議論されている。

不足財源を消費税でカバーなら税率は17%に

以上のような医療・介護費の抑制策は不利益を被る人も少なくないため、これまでは不人気政策として先送りされてきた。今後も給付削減が困難であるとすれば、財源確保のために10%を超える消費税率の引き上げも検討しなければならない。

湯元氏の試算によれば「今後の社会保障の不足財源をすべて消費税でカバーする場合、17%への消費税引き上げ率が必要となる」という。さらに、子育て支援など現役世代への給付も充実させるとすれば、それ以上の引き上げも視野に入る。政治家も国民も、現実を直視しなければならない時期に来ている。

平松 さわみ 東洋経済 記者

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ひらまつ さわみ / Sawami Hiramatsu

週刊東洋経済編集部、市場経済部記者を経て、企業情報部記者

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