民主主義の復興はポピュリズムの先にある ジレンマから脱する3つの方法

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EUは、民主的ガバナンスの新たな段階といえるものであり、中国・ロシア・米国と比肩できる規模の経済圏を生み出す。さらに、グローバル企業と金融組織に対してより大きな影響力を持てるようになる――。EUの創設者や多くの政治家は、EUをこのように考えてきた。

しかし、EUは、統一通貨であるユーロによる金融の一体化を先に推し進めすぎた。ユーロ以前は、ギリシアやイタリアのような国々は、競争力保持のため、自国通貨の切り下げを続けていた。

現在は、こうした国々はユーロを離脱することなく切り下げができない。もしユーロから離脱したら、自国通貨―ドラクマやリラ―が大いに切り下げられる一方で、ユーロ建ての大量の債務に直面することになってしまう。こうした国々は、残留によっても、離脱によっても自国を救うことはできないのだ。

一方、民主主義的とはいえないロシアのプーチン大統領は、ウクライナ、シリア、それに自国ロシアにおける成功が認められたことで、タイムズ誌の今年の人の一人に選ばれた。その国において人気のある独裁的な指導者は多い。中国の習近平、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ、少し目立たないところではポーランド与党の党首ヤロスワフ・カチンスキ、ハンガリー首相のヴィクトル・オルバーンなど非常に多くの独裁的指導者がいる。

ジレンマから脱する3つの方法

2017年以降も、このまま民主主義は衰退を続けるのだろうか。主流派の政治家が、この民主主義のジレンマから脱出するための方法は三つある。

1つ目は、最もあり得そうなことだが、あまり魅力的ではない方法。世界中の多くのポピュリストが大きな失敗を犯すことを期待する、というものだ。米国の次期大統領ドナルド・トランプは、一貫性をもった政治を行えないだろう。英国のEU離脱は、英国経済に長く尾を引く損害を与えるだろう。イタリアは、同国が必要な痛みを伴う改革を実行できる指導者を見つけられないだろう。これによってポピュリストへの懐疑が起こる、というものだ。

2つ目は、ポピュリストが変質すること。彼らも社会的地位を得ることによって、その先鋭性と大衆人気を失う。そして、その主張は結局のところ主流派と大差がなくなっていく。

3つ目は、主流派政党が新たな勢いを見出すこと。理性に基づいた政治の必要性を説き続けることが必要だ。その結果、新しい指導者が現れるだろう。

最後の方法は、とくに忍耐力が必要である。国民投票は、国民による主流派政治への拒否の力の大きさを示してきた。劇的な変化を主張するポピュリストは、多くの国民から支持を得ている。ポピュリストの政策はおそらく失敗するだろうが、私たちはいったん岩だらけの道を進まざるをえない。すでにその途上にあり、そこからは自由になれないのだ。重要な点は、その先を見据えることである。

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