次期米国財務長官は「ドル高」を容認している 日米金利差を背景にドル高円安の基調が続く

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ただ、基調としてはドル高継続であっても、2017年もドル円のボラティリティー(変動率)は高く、しばしば5~10円程度はドル安円高が進むような場面はあると筆者はみている。2016年6月の英国民投票や、11月のトランプ旋風にもみられるとおり、先進国は保護主義に傾きつつある。今後、グローバリゼーションの逆流がさらに進むとすれば、それは世界経済にとってよいこととは言えない。

特に悪影響をこうむるのは、これまでグローバリゼーションによって恩恵を被ってきた新興国経済かもしれない。2017年はリスク要因として新興国から目が離せないだろう。また、欧州の一連の選挙で、極右政党が台頭する可能性も、市場のボラティリティーを高める要因として警戒が必要だ。

125円の黒田シーリングには注意したい

ところで、2015年6月の衆議院予算委員会で黒田日銀総裁は、「実質実効レートがここからさらに円安に振れることはありそうにない」と述べた。先述した「バズーカ2」の流れで、当時のドル円相場は125円台を試す展開となっていた。以来、125円が「黒田シーリング」「黒田ライン」などと呼ばれたことは記憶に新しい。

この発言自体を特に深読みする必要はないかもしれないが、当時、急速な円安に対して国内からブーイングが高まっていたことは無視できない。円安は、緩やかなペースであれば日本経済にとってプラスだが、あまりに急すぎれば、輸入企業のみならず、輸出企業にとっても製造コストの急騰につながり、必ずしもプラスとは言えない面も出てくる。

12月の決定会合では、足元の為替レートについて「別に驚く水準ではない」と、さらりと言い切った黒田総裁だが、仮にハイペースの円安が続き、懸念の声が国内勢からも高まった場合にも「物価目標」達成を優先し、同じスタンスを貫くのだろうか。あるいは125円の「黒田シーリング」はまだ生きているのか……。今後円安ドル高がさらに進行した場合に注目したい、興味深いポイントである。
 

尾河 眞樹 ソニーフィナンシャルグループ(株)執行役員兼金融市場調査部長 チーフアナリスト チーフアナリスト

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おがわ まき / Maki Ogawa

米銀の為替ディーラーを経て、ソニーの財務部にて為替の運用と金融市場の調査に従事。その後シティバンク銀行(現SMBC信託銀行)で個人金融部門の投資調査企画部長として、金融市場の調査・分析を担当。2016年8月より現職に就任し、レポートやテレビ、雑誌などのメディア等を通じて幅広く個人投資家に向けた金融市場の情報発信を行っている。趣味は茶道(裏千家)、読書、市場関係者や仲間との飲み会などの交流。モットーは「東京市場を熱く(厚く)する!」。セミナー、講演、レポートの執筆を通じて、短期の回転売買でなく腰を据えた長期投資家を増やし、日本の金融市場の活性化と個人投資家の資産形成をサポートしたいと考えている。

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