2017年、世界情勢はどこまで「悪化」するのか 英国EU離脱やトランプ当選以上の「事件」も?

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トランプ米次期大統領は就任前であり、これから真価を問われる。だが、同氏のツイートなどを見るかぎり、従来とは非常に異なった大統領になるのは確実だ。ロシアとの関係が一時的にせよ、改善されるのは間違いない。

19日のロシア大使殺害とベルリン襲撃に関するトランプ氏のコメントは、イスラム軍事組織との戦いなどにおいてロシアと緊密に連携することを示唆している。アレッポ陥落で反政府勢力の劣勢が濃厚となったシリアに関しても、大幅な譲歩に踏み切るかもしれない。

トランプ政権は、米中関係も急速に悪化させるだろう。中国が南シナ海で米国の無人水中探査機を奪ったことをトランプ氏が強く批判したのは、その兆しかもしれない。また、過去25年間で中国に大きな恩恵を与えた国際的な自由貿易システムを、トランプ氏が後退させようとしているのは明白だ。

また、独仏で極右が台頭するようなことにでもなれば、欧州大陸の政治的風景は大きく変わる。このまま手をこまぬいていれば、2017年には欧州大陸の自由貿易主義は大幅に後退するだろう。英国の離脱もあり、いずれEU自体が生き残れなくなるかもしれない。

単一通貨ユーロの先行きも楽観できない。12月初めに行われたイタリア国民投票により、反ユーロを掲げる新興政治団体「5つ星運動」が政権を獲得する可能性が強まっている。イタリアがユーロの終わりをもたらすかもしれないのだ。そうなった場合の衝撃度は、英国のEU離脱の比ではない。

ロシアには引き続き油断できない

そして欧州の東にはロシアが控えており、欧州諸国に介入して政治的混乱を助長したり、体制を不安定にさせたりする機会をうかがっている。

大使暗殺翌日の12月20日、シリア和平をめぐってモスクワで行われたロシア、イラン、トルコの外相会談。米国が参加しなかったことに関して米国務省は、中東での米国の影響力低下を示すものではないとの見解を示したが(ロイター/MAXIM SHEMETOV)

トランプ氏勝利によって、NATO(北大西洋条約機構)の長期的な展望も暗い。特に印象的なのは、19日のロシア大使殺害を受け、トルコ、ロシア、イランの3カ国だけがモスクワでシリア問題を討議した点だ。トルコは引き続きNATOにとどまるかもしれないが、エルドアン大統領の下でロシアに接近するかもしれない。

今年は複雑怪奇な1年だったが、2017年がひと息つける年になるとは、まったく考えられない。

著者のピーター・アップス氏はロイターのグローバル問題のコラムニスト。このコラムは同氏個人の見解に基づいている。

 

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