政府予算案、税収増に期待するのは無理筋だ 社会保障の伸びを抑えても財政赤字は再拡大

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他方、国債発行を抑制することには、政権としても注力したとみられる。そのために採った策は、増税でないのはもとより、歳出のさらなる削減でもなく、結局は外国為替資金特別会計の運用益の取り崩しだった。特別会計の運用益の取り崩しによる収入は、税外収入として扱われる。

税外収入には、日本銀行からの納付金もある。日本銀行が保有している国債には、国から利払いがなされるが、そもそも日銀は政府の銀行であるから、その国債利子収入は国に納付することとされている。このところ、量的・質的緩和政策によって国債を大量に購入している日銀は、利子収入も多く得ている。しかし、マイナス金利導入などで日銀の収益が悪化したため、2017年度予算案では、2016年度に比べ2307億円減らし、3044億円とした。

税外収入では「取らぬ狸の皮算用」の可能性も

日銀納付金を減らしたにもかかわらず、2017年度予算案では税外収入を前年度当初予算比6871億円増の5兆3729億円とした。その増加は、外国為替資金特別会計の運用益に多くを依存している。というのも、外国為替資金特別会計は、過去の円高阻止介入で円売りドル買いしたことで米国債を保有しており、図らずもトランプ新政権となる来年には金利上昇が期待されているため、その運用益の一部を一般会計の収入に見込むこととした。ただ、この運用益は、2016年度決算が終わってはじめて確定するので、決算までに見込み通りに運用益が入らなければ、「取らぬ狸の皮算用」になる可能性もある。

こうして、経済成長による税収増が期待できない中、税外収入を多めに確保することで、2017年度の国債発行収入は、前年度当初予算比で622億円減の34兆3698億円となった。確かに、赤字国債は1092億円減らすのだが、公共事業費の増加に伴い建設国債を470億円増やすため、国債発行は622億円だけしか減らせなかった。

その影響は、基礎的財政収支に表れている。安倍内閣は、2020年度に国と地方の基礎的財政収支の黒字化を目指している。地方財政の基礎的財政収支は黒字だが、国の一般会計の基礎的財政収支は大きく赤字であり、その赤字縮小が基礎的財政収支の改善にとって極めて重要である。

しかし、2017年度の一般会計の基礎的財政収支は、10兆8413億円の赤字と、2016年度当初予算の赤字額10兆8199億円より悪化した。これまで第2次安倍内閣発足以降、基礎的財政収支の赤字は、2013年度23.2兆円、2014年度18.0兆円、2015年度13.4兆円、そして昨年度は10.8兆円と、財政健全化目標を見据え順調に赤字を減らしてきた(金額はいずれも当初予算ベース)。2017年度に基礎的財政収支の赤字が再び増えてしまったのだから、赤字国債の発行を減らせたことを喜んではいられない。2020年度の基礎的財政収支黒字化に向け、経済成長だけに依存せず、歳出抑制と税制改革を通じた税収の確保にしっかりと取り組まなければならない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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