宇沢経済学の根底にある「人間尊重」とは何か

「知の巨人」宇沢弘文先生の業績

2014年に亡くなった宇沢弘文氏。人間と地球のために経済学者は何をすべきかを問い続けた(撮影:代 友尋)

本書『宇沢弘文 傑作論文全ファイル』は、故宇沢弘文先生の研究生活の後半40年にわたる代表的な論文をひとつの形にまとめたものである。宇沢先生のノートパソコンに入っていた2000以上もの論稿を、コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授、京都大学の松下和夫名誉教授、国連大学の竹本和彦所長、帝京大学の小島寛之教授など、多くの関係者の協力を得て編集したという。

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「知の巨人」宇沢先生の業績と、今日のグローバル社会における意義を正しく理解することは容易ではない。宇沢先生の活動は、数学の研究者から転じて数理経済学で業績を上げ、後に経済学を実社会の幅広い問題解決に適用することに注力し、更にその中心に「人間」を置いたことで、思想的・哲学的な大きな広がりを持っている。本書の目次を見ても、「自動車」「環境」「医療」「教育」「農村」など、その研究対象は極めて広範囲に及んでいる。

宇沢経済学の根底にある人間尊重

「日本人で最もノーベル経済学賞に近い」と言われながら、自らがかつて教授を務めたシカゴ大学を中心とする主流派経済学を批判してグローバリズムと新自由主義への警鐘を鳴らし、新しい学問分野の構築を目指して精力的に活動されたが、道半ばにして2014年に逝去された。

宇沢先生が提唱した最も重要な概念が「社会的共通資本」(Social Common Capital)である。これは、森林・大気・水道・教育・報道・公園・病院といった公共に必要不可欠な社会的資本を示す概念で、「一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する」(『社会的共通資本』)と定義されるように、単なる社会資本を超えた意味合いを持っている。

より具体的に説明すると、社会的共通資本は、①自然環境(山、森林、川、湖沼、湿地帯、海洋、水、土壌、大気)、②社会的インフラ(道路、橋、鉄道、上・下水道、電力・ガス)、③制度資本(教育、医療、金融、司法、文化)の三つに分けられる。そして、それらに属する全てのものは、国家的に管理されたり、利潤追求の対象として市場に委ねられたりしてはならず、それぞれの社会的共通資本に関わる職業的専門化集団によって、専門的知見と職業的倫理観に基づき管理・運営されなければならないとされる。

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