伝説の経済学者「宇沢弘文」を知っていますか スティグリッツが師と仰ぐ日本の「哲人」とは

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宇沢弘文氏が後進の研究者たちに示した模範とは(撮影:尾形文繁、代 友尋)
日本が世界に誇る経済学者、宇沢弘文氏(1928~2014年)。
数理経済学の分野で大きな業績をあげるにとどまらず、現実の経済社会への関心を強め、水俣病などの公害問題や成田空港建設をめぐる問題の解決に自ら取り組んだ宇沢氏は、世界中の経済学者たちに大きな影響を与えた。
「哲人経済学者」の異名を持つ宇沢氏は、どのような人物だったのだろうか。
本稿では近刊『宇沢弘文 傑作論文全ファイル』の中から、宇沢氏の愛弟子であるジョセフ・E・スティグリッツ氏(2001年ノーベル経済学賞受賞)の講演録を、抜粋・編集のうえお届けする。

私の進路を変えた宇沢先生との出会い

『宇沢弘文 傑作論文全ファイル』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

私が宇沢先生と出会ったのは、51年前のことです。当時、スタンフォード大学からシカゴ大学に移られた宇沢先生は、シカゴ大学で開かれたセミナーに、私たち数人の学生を誘ってくれました。そのなかには、私と共同でノーベル賞を受賞したジョージ・アカロフ教授もいました。宇沢先生は、MIT、スタンフォード、イェールの各大学から若手経済学者を集めて、シカゴを世界の知の集積地にしようと考えたのです。その考えはみごとに実現しました。私たちは、シカゴに集まったわずか1カ月ほどの間に、全員、宇沢先生の信奉者になってしまったのです。私は今も、宇沢先生が語っておられたことを折に触れ思い出します。

宇沢先生のスタンフォードからシカゴへの移籍は興味深いできごとでした。なぜなら、シカゴ大学が保守的な右派経済学の中心地であったにもかかわらず、宇沢先生はその立場に属していなかったからです。集まった若手経済学者たちはシカゴ大学で、収入の分配にまつわる不平等を議論することなど最悪だと考えていました。一方、宇沢先生はご自身の研究が成長理論へと到達するなかで、不平等という概念の重要性や、外部性としてあまり顧みられていなかった環境問題についてもよく話をされていました。

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