「高学歴女性」がNPOに続々と集まる事情 ボランティア精神と仕事が合体

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──社会構造の問題もある?

女性の人生には結婚や出産、パートナーの転勤などで、企業に就職しても辞めざるをえないことが起こる。また社内で上の職責に上れば上るほどその地位での女性率は下がっていく。そこには「いづらい」という日本固有の雇用文化があって、そのシワ寄せでN女が生まれている状況もある。

N女たちが夫の転勤などでいったん企業を辞めた後、また簡単に同じ企業に戻れるかといえば、そういう社会の構造にはなっていない。それに対しNPOは優秀な人材に来てほしいし、人材も不足していて雇用されやすい。社会貢献というポジティブな理由だけで、女性たちが新しい世界で活躍したいと喜んで参入しているのではない。

おカネが回らないといい人は来ない

──女性が活躍できる場としてNPOへの転職が太い流れになりますか。

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この本で取材した人の半数近くが辞めたり、辞める予定だったりしていた。楽観視できないし、NPOを辞めた後どうなるのか。私の友人は1年で見切りをつけ、ベンチャー企業に戻っていった。彼女の場合、NPOでやっているときも関連IT会社に出向し、ほとんど業務的には以前と変わらない状況だった。

──女性は辞めやすい?

女性は一つの会社に勤め上げようという意識を持てないところがある。ロールモデルがたくさん存在する公務員や学校の先生以外、男性のような感じで自分のキャリアを見ている人は少ない。専業主婦になりたい人もいるし、いろいろな考え方がある。そのうちのひとつとしてN女を選ぶ人たちもいる。

──ビジネス系のN女も。

たとえば“留職”プログラムの「クロスフィールド」に籍を置くとか。取り上げたNPOは伸びているが、NPOはボランティアで支えられているところが数としては圧倒的に多い。N女のような人たちが増えてこないと、日本の課題解決は難しい。

おカネと人材はセットなので、おカネが回らないといい人は来ないし、いい人が来ないとNPOとしてのビジネスモデルを作るのも難しい。特に人材は、ビジネス化していく意味でも、ハイスペックな女性が一般企業で鍛えられ得てきたノウハウを注入できるならば、それに越したことはない。

──中でも、訪問型病児保育の「ノーベル」は象徴的です。

行政側が手掛けたいとさえ言いだしていて、NPOとしては行政ですべてやれるようになったら手を引くと。社会の課題を解決するのが目的であり、消滅してもいいと潔い。社会改革を進めるこういう人たちに賞賛が集まってしかるべきだ。

中村 安希 ノンフィクション作家

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なかむら あき / Aki Nakamura

1979年京都府生まれ、三重県育ち。カリフォルニア大学アーバイン校芸術学部演劇科卒。09年、47カ国を巡る旅をもとに書いた『インパラの朝』で開高健ノンフィクション賞を受賞。他の著書に、『Beフラット』『食べる。』『愛と憎しみの豚』『リオとタケル』がある。

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