東京で道路よりも鉄道が発達した3つの理由 4割が未完成「東京の伸びしろ」は道路にある

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1つ目の理由は、道路よりも鉄道の整備が優先されたことだ。つまり、政治的な意図から鉄道を先に発達させた歴史があるのだ。

その大きな要因になったのが、明治維新後に実施された都市改造だ。封建都市・江戸を、西洋をモデルにした近代都市・東京に改造することは、国家の近代化のために必要とされた。

この都市改造は容易ではなかった。封建都市と近代都市では考え方に大きなギャップがあり、それを短期間で埋めることが難しかったからだ。

たとえば車両交通に対する考え方も異なっていた。西洋の近代都市では早期に馬車などの車両交通が発達したのに対して、封建都市・江戸は防衛を重視して、車両交通を拒むような都市構造を採用した。東京に現存するT字路やクランクの多くは、都市改造で消しきれなかった封建都市の名残だ。

鋪装道路の原点である石畳。ヨーロッパでは馬車などの通行を容易にするため、日本よりも先に整備された。ベルリン・ブランデンブルク門前にて

舗装道路の整備状況も、西洋と日本では異なっていた。西洋では車輪の通行を容易にする舗装道路が早期に整備された。舗装道路の原点とも言える石畳は、イタリアでは紀元前にローマ街道が整備されたころから存在し、その後ヨーロッパを中心に広がった。それゆえヨーロッパでは、舗装道路や馬車を中心とした車両交通が時間をかけて発達でき、自動車の時代にもスムーズに移行できた。

日本では馬車交通が発達しなかった

いっぽう日本では、幕府が街道での車両の使用を禁じたこともあり、車両交通が長らく発達できず、石畳を含む舗装道路もほとんど整備されなかった。このため、陸上移動を主に徒歩に頼らざるを得なかった代わりに、水運が発達して物流を支えた。

日本では馬車が発達できない状況が長らく続いたのち、明治維新後になって突然交通を近代化することになった。それは外国の影響で国家を近代化する必要に迫られたからとはいえ、交通にとっては急な方向転換であった。

そこで明治政府は、道路よりも鉄道の整備を優先した。主要な輸送ルートで大量輸送を得意とする鉄道を先に整備したほうが、交通を短期間で効率よく近代化できるからだ。また、鉄道開業で蒸気機関車が走ることは、当時は見た目にインパクトがあり、新しい時代の到来を大衆に伝えるうえでも都合がよかった。

東京は鉄道の発達が国内で特に早い都市だった。東京での鉄道整備は、日本初の鉄道が開業してから着々と進められた。

2つ目の理由は、東京が「鉄道が創った都市」でもあることだ。

東京には、鉄道とともに市街地が広がったという歴史がある。鉄道をきっかけにして、郊外に住む人が増えたからだ。これは、電車の導入による高頻度輸送の実現で市街地の移動が容易になり、郊外の住宅から都心の職場に通勤する職住分離のライフスタイルが定着したことが関係している。

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