創部7年の野球部が、日本一になれた理由 新興野球部、躍進の陰にアメーバ経営あり

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体力と技術は知力でカバーできる

チーム全体に狙い球を徹底させると同時に、2番や下位打線のようにつなぐ役割を求められる打者には、「初球から振らず、球数を放らせろ」と伝えた。

「初球で凡打するのとフルカウントで打ち取られるのでは、アウトの意味が異なります。それぞれの役割を明確にし、相手への攻め方を徹底すれば、全体で攻略することができると思います」

低めのストレートに見逃し三振に倒れても、齊藤は「指示を守っている」と割り切った。なかなか点を取れなかったが、6回にソロ本塁打が飛び出し先制する。虎の子の1点を守り切り、1対0で逃げ切った。伝統校を打ち破り、悲願の日本一輝いた。

「うちの選手は普段から自分たちで考えているという自信があるから、どんな試合でも動じないんだと思います」

今年6月、神奈川大学リーグを2シーズン連続で制した桐蔭横浜大学は、全日本大学選手権に出場した。1、2回戦を完封で勝利し、準々決勝では東都の強豪・亜細亜大学と対戦する。6回に2点を追いつき延長タイブレークに持ち込んだものの、あと一歩のところで敗れた。

敗戦後、神宮球場の会見場に現れた齊藤は、目を充血させながら話した。

「2試合勝って、今日は負けたけど接戦でした。自信もついたし、課題も見えた。優勝には『もうひとつ足りない』と選手も感じたと思います。そこを秋までに埋めていきたい」

2006年に創部した頃から7年後に全国の頂点に立つまで、桐蔭横浜大学は挑戦者の立場を貫いた。その気持ちは、日本一になっても同じだ。個の力や環境に限界があるなら、創意工夫で乗り越えるしかない。体力や技術で劣る部分は、知力を磨けばカバーすることができる。

チャレンジスピリットと発想力があれば、桐蔭横浜大学のように強豪とも伍して戦うことができるのである。

中島 大輔 スポーツライター

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なかじま だいすけ / Daisuke Nakajima

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。2005年夏、セルティックに移籍した中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた「野球消滅」。「中南米野球はなぜ強いのか」(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。NewsPicksのスポーツ記事を担当。文春野球で西武の監督代行を務める。

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