フィリピン政府の「無慈悲殺人」を知る10枚 麻薬撲滅の名のもとに超法規的な殺人が横行

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そのとき一人の警察官の携帯から着信音が流れ、彼は受信したメッセージを読み上げた。「ギネブラが勝ったよ」と彼は別の警察官に言った。国内で最も人気のあるバスケットボールチーム、バランガイ・ギネブラ・サンミゲルが優勝をかけた試合を行っていた。エリアムとプリンセスによると、遺体袋に入れられたおじが運び出されるとき、警察官たちはチームの勝利を喜んでいたという。

殺人は生活のすべてを破壊する。ベンジャミン・ビスダは、家族の誕生日のパーティの最中にサリサリに買い物に出かけ、ケーキを食べていたところ8人の男に捕らえられたと、彼の家族は言う。それから20分もしないうちに、彼の遺体は警察署の前に投げ捨てられた。

警察は、麻薬取引の現場を押さえる隠密捜査だったとし、手錠をかけられていたビスダが警察官の銃を奪おうとしたため、銃殺したと主張した。そう、これもナンラバンだ。防犯カメラの映像には、亡くなる前のビスダがマスクをかぶった2人の男に挟まれてバイクに乗せられている様子が写されていた。

子どもたちの目の前で

クルスが殺害された約1時間半後、私たちはその現場から通りをいくつか挟んだ別の家にいた。そこでも一人の男性が殺害された。その夜も雨が降っていた。

男性の妻ネリー・ディアスの泣き叫ぶ声が、彼女の姿を見る前に私たちの耳に入ってきた。彼女は夫のクリソストモ(51)の遺体に覆いかぶさるように倒れこんでいた。

クリソストモ・ディアスはこの地域で育ち、片手間の仕事をたまにして生活していた。彼は麻薬を使用していたが、密売人ではなかったと妻は言い、ドゥテルテが大統領選に勝利してすぐに夫は警察に出頭したと語った。それでも妻は、自宅に寝泊まりするのは危険だと親戚の家に滞在するよう夫に言った。クリソストモは9人の子どもたちに会うために、数日前に自宅に戻ったばかりだった。

夫妻の長男(19)によると、バイクのヘルメットをかぶった男と、続いてもう2人が玄関から入ってきた。ヘルメットをかぶった男が父親に銃を向け、もう一人の男は15歳の弟に銃を向け、3人目の男は1枚の紙を持っていた。

ヘルメットの男は「じゃあな」と言うと、父の胸を撃ったと長男は言う。父の体は崩れ落ちたが、男はさらに2回、頭と頬を撃った。

クルスの子どもたちはこう言った。3人の男はその場を立ち去るときに笑っていた、と。

(執筆:Daniel Berehulak〈カメラマン〉、翻訳:中丸碧)

(C)2016 The New York Times News Services

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