【末吉竹二郎氏・講演】地球温暖化時代における企業の役割(その3~「CO2本位制」のはじまり~)

第11回環境報告書賞 シンポジウム・基調講演より
講師:国連環境計画・金融イニシアチブ 特別顧問 末吉竹二郎
2008年5月15日 東京會舘

その2より続き)

●「CO2本位制」の下では

 既に我々人類は、大きな問題を引き起こしてきた。地球が吸収できる能力以上の人為的な温室効果ガスの排出を続けてきていることだ。いま世界が求めているのは、ともかく地球の吸収能力以上にCO2は出さないということで、それが人類の目標になっている。
 そういう時代のことを私は、「CO2本位制」と呼んでいる。つまり、かつての金本位制が、金の保有高により通貨の発行量や経済の大きさを決めたように、これからは、国であれ、企業であれ、個人であれ、自分に許されたCO2の排出量の中でしか経済活動や人間活動ができないということだ。そういう時代が始まったと認識すべきだろう。かつて空気はタダだったが、いまや空気は有限の資源になってしまい、幾ら使っても許される時代は終わった。

 世界の多くの人が言っているように、カーボンの価格が社会に対してさまざまなシグナルを出す時代になった。何が良い、何が悪いという判断をするシグナルを出すのがカーボンプライスになったということだ。
 金利政策がそうであり、重油価格がそうだろう。重油の価格が30~40ドルのときと、100ドルのとき、200ドルのときでは、明らかに経済の重点の置き方や人間活動の重点の置き方が違ってくる。これからは、カーボンプライスのあり方でさまざまなところにシグナルが出されることになるということだ。

●新しい価値の誕生

 そういう時代には新しい価値観が生まれる。いや、既に生まれていると言ってもいい。その価値観は、「CO2を出し続けるのは悪いことだから、出し続けると罰せられ、損をし、嫌がられる。一方、減らすのは良いことで、得をし、褒められ、歓迎される」という極めて単純な価値観だ。こうした価値観が、世界の中のさまざまな分野で適用されていくだろう。そういう時代が始まったのだ。
 そうした例として、ロンドンの「渋滞税」がある。ロンドンの中心部に車で入ると、監視カメラで車のナンバーを読み取り、翌日には自動的に請求書が届くと言われている。月曜日から金曜日の間の朝7時から夕方6時までこのエリアに車で入ると、1日8ポンド(約1800円)取られる。つまり、東京の丸の内に車で来ると、毎日1800円払えということと同じだ。これを2008年10月から25ポンド(5000円超)にする。おカネを取られるのはガソリン車で、エタノール車とかエコカーは取られない。このようなことが、これからいろんなところで進んでいくだろう。

●深刻化する世界の課題と解決主体の不在

 最近、企業に対する社会からの要求が変わりはじめた。それは、我々の住んでいる地球社会が大きな課題をたくさん抱えはじめたことによる。しかもその課題は、どれも非常に深刻で、なかなか解決できない。温暖化の問題、貧困の問題、安全な水、生物の多様性などである。
 ところが、一体だれがこの問題を解決するのか。解決に当たるべき主体はだれかということが、なかなか見えない。一昔前なら、それは政府がやることだ、あるいは国連がやるべきだと言っていた。確かに、このような社会全体の問題に対応するのは公的部門だろう。しかし、残念ながら、公的部門のパワーは相対的に衰えている。

●企業こそ解決主体に

 現在、パワーを持っているのは明らかにビジネスの分野だ。地域やコミュニティーの直面する地球的な問題の解決のための役割を公的部門が担えないのであれば、パワーアップしている企業が、この問題にもっと真正面から向かい、自分の問題として取り上げるべきだという声が非常に強くなっている。
 どんな企業も、地球社会やコミュニティーが病む中では、いいビジネスを継続することはできない。病気の地球からは良いビジネスは生まれない。いま、地球社会はビジネスに新しい視点を求め、新しい期待を投げかけはじめている。例えば、企業がグローバリゼーションでメリットを受け、そのグローバリゼーションが、一方で大きな負の遺産をつくっているとすれば、その負の遺産の解決にビジネスそのものが当たるのが当然だという視点である。
その4に続く、全6回)

末吉竹二郎(すえよし・たけじろう)
国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP・FI)特別顧問。日本カーボンオフセット代表理事。1945年1月、鹿児島県生まれ。
東京大学経済学部卒業後、三菱銀行入行。ニューヨーク支店長、同行取締役、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取、日興アセットマネジメント副社長などを歴任。日興アセット時代にUNEP・FIの運営委員会のメンバーに就任したのをきっかけに、この運動の支援に乗り出した。企業の社外取締役や社外監査役を務めるかたわら、環境問題や企業の社会的責任活動について各種審議会、講演、テレビなどを通じて啓蒙に努めている。
著書に『日本新生』(北星堂)、『カーボンリスク』(北星堂、共著)、『有害連鎖』(幻冬舎)がある。
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