絶好調スバルの「超効率工場」が直面する課題 納車まで3カ月待ち、チョコット能増にも限界

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ホンダや日産自動車など、同業他社が建設した12万台規模の工場はおおむね投資額が500億円前後だ。一方の富士重は能増を毎年数万台ずつに抑えてきたことで、工場1棟分の大がかりな投資と比較すると「4割投資額を抑えられた」(大河原正喜・群馬製作所長)のだという。

しかし「チョコット」はその分現場に無理を強いていた。限られたスペースの中で、物流や部品の供給体制などのインフラを必死に追いつかせようとした結果、2014年ごろからは社内でも急成長に伴う「ひずみ」が感じられるようになっていた。

無理な増強で工場内は大混雑

組み立てラインを延長せずに人員を増やせば、人口密度は高まる。一例を挙げると、エンジンとリアサスペンションのそれぞれの取り付け工程を1か所にまとめ、車1台の作業を4人で同時に行うという窮屈な工程もあった。

群馬製作所内で建設中の4階建て塗装工場。最新鋭になることで、生産効率は大幅に高まる見込みだ(記者撮影)

また、手狭な工場で空き地を見つけて増産を進めてきたことで、まるで迷路のように工場内物流の動線は複雑になった。工場内に部品を運ぶフォークリフトの渋滞や、サプライヤーから届いた部品の搬入口の混雑といった事態も生じてきた。今後は能力増強と並行し、工場のレイアウトを整理し直すという。

前出の大河原・群馬製作所長は「ここ何年かは能力増強でものすごく忙しかったが、ようやく足元を改善する時期に入ってきた」と語る。

さらなる効率化を進めるべく、国内外の工場での工程の標準化にも取り組む。特に群馬製作所・矢島工場の溶接・組み立て工程では、工場の操業を始めた際の方針で、自動化できる工程同士を近く位置に集約した。そのため同じ作業なのに他工場と工程の順序が入れ替わっている箇所が目立つ。こうした工程の順序を国内外でそろえることで、日米の工場で品質の安定性向上を狙っている。

富士重は2016年度の年間販売計画を106.2万台としており、創業以来初めて、ついに100万台を超える見込みだ。「チョコット」では対応できない台数拡大に、生産現場はどう対応するか。難しい舵取りがまだまだ求められる。

宮本 夏実 東洋経済 記者

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みやもと なつみ / Natsumi Miyamoto

自動車メーカー、部品会社を担当

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